男女問わず、色気のある人に魅了される私たち。「私もそんな人になりたい」と思っていても、そもそも色気がどういうものか分からず、その手立てもわからない…いう疑問からはじまった本特集。前編『色気の演出には「この人をもっと知りたい」と思わせること』では、色気の正体を「コミットしたい気持ちをそそるもの」と紐解いてくださった、脳科学者の中野信子さん。では、実際に色気のある人がなぜ魅力的に見えるのか、色気を身につけたらこの社会はどう変わるのかを伺いました。
そもそも人間は一貫性がないから、矛盾を抱えていい
――ところで、急に色気のある人になっても変ではないでしょうか…?
- 中野信子さん(以下、中野)
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人間はもともと一貫してない生き物です。でも、社会生活を送るためには集団で作業しなければならないので、個体間で意思疎通を図る必要がある。本来は特に一貫性なんかないところを、頑張ってあたかも一貫性があるかのように取り繕って、なんとかコミュニケーションを維持できるようにしている、というのが実態に近いんです。本来は、矛盾を抱えているほうが自然なんですよ。
――一貫性を必死に保とうとしていると思います。私はこういうキャラです、みたいなものをキープし続けるというか。
- 中野
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そうですよね。それに疲れてしまうこともあると思います。それでも一貫性を保とうとするのは、そうでないと糾弾されたり、仲間外れにされたり、攻撃されたりする惧れがあるからでしょう。もちろんいい子である努力をできるのは社会性の高い証拠で、それもとても大事な能力の一つですが、時には矛盾しててもいいし、矛盾した思考を持つ時間があってもいい。もしかしたら、自分の矛盾を許せる人が色気のある人かもしれないですね。
――すごいヒントが隠されている気がします。自分の矛盾を許すとは、具体的になにをすればいいのでしょうか?
- 中野
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そうですね。まず自分が許せないものを探してみましょうか。許せないものだったり、許せないことをしている人を、「なんでこの人はそんなことをしているのか?」というように、立場を逆にして考えてみるんです。
たとえば、「なんであの人いつも胸のあいた服着てるのかしら?」と自問自答を繰り返して、「私も着たいと思ってるのかもしれない」「わたしに胸がないからイラつくんだわ」とか。つまり、自分がイラつく、許せないことを探して、相手の立場にたった言い訳を自分で考えるというロールプレイ…これ、慣れないと地獄なんですけどね(笑)。
――結構苦しいです…! でも、SNSなどで、許せなければすぐに怒りを露わにして攻撃する人が増えた気がします。
- 中野
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仮に、不倫が発覚した著名な方、たとえば斉藤由貴さんの行動を許せないと思っているとします。もし自分が斎藤由貴さん本人だったらどうか? という立場で考えてみましょうか。その相手なしでは気力も沸かず、女優としての自信も喪ったまま仕事も覚束ず、あれほどの演技力を持っていながらそれを発揮できなかったかもしれない。他の人には俄かには説明しがたい、大切な絆ができた幸せな瞬間があったのかもしれない。単に同情しろ、ということではなくて、その人の論理がもしかしたら自分の中にもあるかもしれない、という気付きが重要なんです。
ただ、もともと彼女の行動を苦々しく思うタイプの人であれば、それでもやっぱり許せない、という気持ちが完全に消えることはないでしょう。許せないという自分の気持ちを否定する必要もないし、彼女の気持ちもわかってしまう。その両方の立場に立てれば、自分の中に自然に矛盾ができますね。
――そういう人って魅力的に思えますね。
- 中野
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苦々しく思う気持ちを抱えながらも「あの人にもいろいろあるのよ」と言える女性のほうが、色気がありませんか。もしこんな色気のある人がたくさんいたら、すごく豊かで寛容な社会になるだろうなと思います。
――寛容な社会になれば、選択肢も広がりますよね。
- 中野
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そうですね。でも、寛容な社会ゆえの苦しみも出てくると思います。自分が寛容であることを許してもらうということは、相手のわがままも受け入れないといけないということ。
――残念ながら、今の日本はそういった雰囲気ではないですね。
- 中野
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残念ですね。それが社会契約として成り立っている構造ですから、最初に逸脱した人はものすごく目立ってしまって、叩かれてしまいますよね。ただ、今すぐ無理やり舵を切らなくてもいいとは思いますけど、私はそういう寛容な生き方のほうがいいなと思っています。
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