色気は発見していくもの。余裕のある人生を送るために

―― これまで色気のことを伺ってきましたが、あまり意識せずに生活してきたんだなぁと反省しています(笑)。

それは日常での優先順位が低かったからでしょう。それこそ、昭和のモーレツサラリーマンが昼飯を5分で済ませていた時代は、食いしん坊だとか、食べ物にこだわる男なんて恥ずかしい!って言われていました。女性はその頃から食への関心が高かったけれど、喫煙率が高かった当時は、食後の一服だけが楽しみだから、腹に入れば何でもいいって思っていたんですよね。

ところが、80年台に入り、『美味しんぼ』のような料理漫画の登場でグルメブームが起きると、「美味しいものを追求することは悪いことじゃない」「考えないよりも考えたほうが人生豊かになる」という意識が出てきたんです。それは、性的なことも同じだと思います。
僕が司会しているNHKBS1の「COOL JAPAN」に出演しているイタリア人やスペイン人は、60越えたおじさんになっても平気な顔して若い女性を口説くんですよ。でも、全然下品になってない。「よかったら僕の老後の話でも聞かないかい?」みたいにちょっとウィットに富んでてね。

―― かっこいいですね(笑)

もちろんフラれますよ! フラれるんだけど、人生の最後に素敵な女性と恋に落ちるかもしれないって会話を楽しんでいる姿をみると、仕事して、テレビ観て、酒飲んで、寝てを繰り返すだけの人生に比べたら、なんて豊かな人生なんだろうって本当に思います。

―― そういう色気をまとっている人が増えると、この社会はどうなっていくでしょうか。

うまく付き合えば、すごく豊かな社会になるでしょうね。もちろん色気だけに振り回されて、仕事のことを忘れてしまったら意味ないけど、たぶん精神的にも余裕が出てくるし、ギスギスした雰囲気にならなくなるよね。

――色気をどうやって掴んでいくのか、少しずつイメージできるようになってきました。

あとは、実践あるのみです。そして、日課にすること。それこそリンパマッサージとかストレッチみたいな、寝る前に必ずする習慣づけが大切です。
あと、焦っちゃいけないよ! そんな簡単には手に入れられないものだから、半年から1年ぐらいはやってくださいよ。

――これも勉強みたいに、やんなきゃ! って焦ってしまいますからね。

受験勉強と一緒で、近道があると思い込んでしまうんですよね。この話を若い俳優にすると、「で、結局一番早く身につくのはどの方法ですか!」って言うから、馬鹿野郎って言うんだけど(笑)。
2日か3日に1回、色っぽいことを考えていた人は、たぶん3ヶ月ぐらいで済むかもしれないし、ここ2年そんなこと全く考えてなかった人は、まあ……4、5年かかるかもしれない(笑)。けど、確実に身についていくものですからね。

――後天的に身についていくものですよね。

もちろんもちろん。後天的にというより、みんな発見していくわけですよ。生まれついて色っぽい赤ん坊なんているわけじゃないですからね(笑)。

【おわり】

鴻上 尚史(こうかみ・しょうじ)

作家・演出家。1958年愛媛県生まれ。早稲田大学在学中の81年に劇団「第三舞台」を結成。以降、作・演出を手がけ「朝日のような夕日をつれて」「ハッシャ・バイ」「天使は瞳を閉じて」「トランス」などの作品群を発表する。
2011年に第三舞台封印解除&解散公演「深呼吸する惑星」を上演し、現在は、プロデュースユニット「KOKAMI@network」と、2008 年に若手俳優を集め旗揚げした「虚構の劇団」を中心に活動。これまで紀伊國屋演劇賞、岸田國士戯曲賞、読売文学賞など受賞。
舞台公演のほかには、エッセイスト、小説家、テレビ番組司会、ラジオ・パーソナリティ、映画監督など幅広く活動。また、俳優育成のためのワークショップや講義も精力的に行うほか、表現、演技、演出などに関する書籍を多数発表している。
近著に『不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか 講談社現代新書』がある。