私たちは色気について、「あの人は色気がある(ない)よね」など、「色気」そのものの定義や条件が具体的にどういうものか分からないまま、話しています。しかし、なにかしらの共通認識を抱いていることは間違いありません。
私たち編集部は、非言語である「色気」を演出家の鴻上尚史さんの場合はどのように捉えているかを伺いました。
1日にどのくらい色っぽいことを考えているか
―― あの人はなぜか色気があるよねとか、日常的に色気については話したりしますが、そもそも色気とは何か?というのが特集のきっかけです。『あなたの魅力を演出するちょっとしたヒント』を拝読して、色気のヒントも鴻上さんはご存知かもしれないと思い、依頼させていただきました。
ははは、面白いね。女優さんや女優見習いからも、「色気がないんですけどどうしたら出ますか?」って質問を受けるんですよ。
――どうやって指導しているんですか。
まず、「一日どれくらい色っぽいことを考えてる?」って聞きます。
今日は何食べようか、何着ようか、といった日常生活を考えている時間の中に、どれだけ「色っぽいこと」を考えているか確認するんです。
―― 「色っぽいこと」とは具体的にどういうことでしょう。
たとえば、目の前に自分の好きな男の人がいるとして、その人にどんな風に抱きしめられたいとか、どんな風に髪の毛を触ってもらいたいとか、どんな風にキスをされたいかといったセクシーなことですね。そういうことを、一日に数分でも具体的に考えているかと尋ねると、だいたいみんな「あっ」て顔するんですよ(笑)。
―― 私も一瞬どきっとしました…セクシーな想像ってけっこう難しいです。ぱっと言われても出てこないというか、私は日頃からあまり意識してなかったです。
これはスポーツ界が先に気づいたんですが、脳内でリアルにイメージすると実際に上達してくるんです。それもただぼんやりと、アバウトにイメージするのではなくて、ボールの硬さとか重さとか、目の前に誰がいるかということまで具体的に落とし込むことが重要です。
色気も同じで、誰に対して、どうやって、どういうシチュエーションで見つめているのか、抱かれているのかを脳内で具体的にイメージしていくと、色気の精度というものを捉えられると思います。
――セクシーなことをイメージすれば、色気は自ずと出てくるもんなんですね。
僕がイギリスの演劇学校に留学していた38歳の頃、オランダから来たメダという女の子に出会ったんです。ある時、ただベンチに座って、自分の好きな公園や季節をイメージするレッスンの最中に彼女がむちゃくちゃ色っぽく見えたので、授業が終わった後、思わず駆け寄って、どうやっているのか聞いたんです。そしたら、恥ずかしそうに微笑んで、「頭の中でボーイフレンドとベッドインする過程をずっとイメージしてたんです」って。だからあんなにも色気が出ていたんだなって僕も感心したんです。
―― まさに、メダさんがイメージしていたことが、色気を醸し出していた、と。
やっぱりその人が今何を感じているか、今何を求めているかが表面に滲み出てしまうからだと思います。
デジタル全盛期になっても、演劇やライブコンサートが滅んでいないのは、同じ空間で目の前の生身の人間から零れ落ちるものが確実にあるから、その人のエネルギーや生き方がビシビシ伝わってくる。だから、劇場やホールに足を運んでいると思うんです。
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