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  • 2017.04.06

「20代は価値観がグラつくことに意味がある。他人の余計な一言にいちいち悩んでいい」中村うさぎさんインタビュー後編

自由な恋愛やセックスを楽しんでいるだけで「自分を大切にしなよ」や「親が泣いてるよ」などの謎のマウンティングを受けてしまう昨今。でも、果たして自分がしているこの性行為って本当に楽しいんだっけ…?そんな風に価値観がぐらぐら揺らぐ若いとき、悩んだままでいいですか?うさぎさん

 エッセイストの中村うさぎさんへのインタビュー後編です。
前回に続いて後編では、価値観がグラつきまくりだったという20代の頃のうさぎさんのお話や、周囲の人からの横槍に負けずに生きるコツを伺いました。

 

人の意見に合わせて生きていると自己肯定できなくなる

恋愛一揆 中村うさぎ AM 自分を大切に
中村うさぎさん

──うさぎさんが考える「自分を大切にしていない状態」ってどういう状態ですか?

中村うさぎさん(以下敬称略):前回も言ったけれど、自分の幸福とは何かを考えずに、周囲の幸福の基準にあわせて自分の欲望を抑えて、自分がしたいことまで否定してしまうこと。それって自己否定なんですよね。

 私は自己否定が一番自分を大切にしていない状態だと思ってる。だって、いろいろ自分に欠点もあるし理想にはほど遠いから、自己肯定感なんてなかなかみんな持てないものなんだけどさ、それでも自分の感じることとか、これは違うんじゃないかなっていう思いを抑えちゃうのって、すごく自分を否定していることだよね。
 
 失敗してもいいから自分の考えていることをやってみて、そこでだんだん自信をつけていかないと、自己肯定感なんか持てないと思うんですよ。

──周りの意見に従っていい子でいても、自己肯定感は育たないと……。

中村:人から「こういうもんだから、こうしなさい」って言われたこと、それがそっくり自分の欲望ならいいんだけどさ、本当は違うんじゃないかと思いつつ従ったり、人の意見に合わせて、自分の価値観や生き方を決定していると、いつまでたっても本来の自分を肯定できないよね。

 せっかくみんな、生まれてきてるんだから、他人のために生きるのは馬鹿馬鹿しいので、自分のために生きてほしいなと、女の人に対してはとくに思いますね、人生の選択肢が多くなっただけにね。

──特に若い女性だと、自分がやりたいことや欲しいものが何なのかまだ定かではない女性もいると思うんです。奔放な生き方をしつつあっても、「本当にこれでいいのかな」と心のどこかで迷いがある。そんなときに、「自分のこと大切にしなよ」と他人から言われると、「え? やっぱりそうなのかな?」って揺らいでしまうこともありますよね。

中村:でもさ結局、自分でさえ自分のやりたいことがわからないのに、他人なんかに余計わかるはずないんですよね。

──言われてみれば! 

中村:勝手に「中村はこういう人間だろう」と、イメージを押しつけてくる人だっていますからね。

他人が言う「あなたはこうでしょ、こう生きるべきだ」みたいなことを参考にはしても、それを真に受ける必要はないんじゃないかな。他人はたいてい誤解していると思って間違いないので。

 

他人に何か言われてグラついてもそれはそれでいい

──うさぎさん自身は、他人から何か言われて自分の考えが揺らいだことありますか?

中村:それはありますよ。だいたい20代なんかグラつきまくりだったし。

 女性から言われること、男性から言われること、目上の人から言われること、同年代から言われることが全部違ったりすると、誰の言っていることを参考にすればいいのかわからない!  みたいな。 
 
 まぁ最初から自我が確立している人なんていないし、20代はずっと迷い続けることに意味があると思うし。だから「自分のこと大切にしなよ」って言われて、グラついてもそれはそれでいいんだと思うんですよ。
試しに、みんなの言うように「自分を大切に」してみて、居心地がいいかどうかですよね。「なんかこれ私じゃない」と思えばやめればいいし、逆に「なるほど、このほうがなんか安定して生きられるかも」って思うかもしれないし。だからちょっとやってみて、自分に聞いてみる。それがいいんじゃないかな。

──悩んだら、とりあえずいろいろ試してみたらいいんですね。

中村:そうですね、人生に失敗なんか付きものだから。失敗することでわかることってあるじゃないですか。だから失敗してもいいからいろいろやってみるのが20代とか30代前半くらいかなって思いますね。

 後悔するようなことをしちゃっても、人殺しとか犯罪でもないかぎり、取り返しのつかない失敗なんてほぼないってこの歳になってくるとよくわかるんですよ。

 私は30代半ば以降が、買い物依存症まっさかりの大失敗期だったんですけど、それは「自分がどうしたいか」がわかってなくて、ああなっちゃってた。
そういう失敗を通して、私は自分が思っているほど冷静な人間じゃないってことがわかったんですよ。それまではしっかり者のつもりだったんで(笑)。自分がしっかり者じゃないことがよくわかっただけでもよかったです。

20代の頃は人に嫌われるのが怖かった

恋愛一揆 中村うさぎ AM 自分を大切に
中村うさぎさん

中村:それに20代の頃は、人に嫌われるのがものすごい怖くて。

──それ、わかります!

中村:それはもう10代の女子校のころから、ハブられるのが怖いとか、いじめられたくないって思いがあったから。みんなから好かれたい気持ちが強かったですね〜。20代になってからも、まだ周りから嫌われてるんじゃないかとか、ずっと気にしてたんですよ。

 でも、30代の半ばくらいから、もうなんていうか、私のこと嫌いな人に好きになってもらう必要なくない? ってなった。私だって嫌いな人いるし。嫌いな人から「好きになれ」って言われても無理だし。お互い好きになれない相手ってどうしてもいるわけでしょ。

 しかも嫌われたくなくて人の顔色見て生きるとしても、それはそれでいろんな人がいるからすべての人の機嫌をとることってできないじゃない。
 
──かなり難しいです!

中村:買い物依存症の話にしても「もっと買え! もっと買え!」っていう人と「もういい加減にしろ!」っていう人がいて両極端なわけだから、自分の生き方なんかを他人の判断に委ねてたら、いつまでたっても決まらないですよ。

──他人の意見よりも自分が覚悟するしかない、と。

中村:そうですね、自分の生きたいように生きるしかないし、それに対して嫌いとか批判とかがあるのは当然だし、嫌われるなら嫌われるでそりゃしょうがないなって。

 この名前で書く仕事を始めてからなんて、横槍っていうか、批判はいっぱい、嫌ってほど受けたんですよ。
 
 まず、文春で連載を始めた頃に、抗議の手紙がものすごいきたんですよね。「こんな税金も払わないで、買い物ばっかりしている人間、はっきり言って人間としてどうかと思う。自分はもうずっと何十年間も真面目に働いて、税金おさめてきたのに、こんな馬鹿みたいな女のやりたい放題を載せるなんて御誌の見識を疑います」(75歳・無職)とか。
 
 そういうのに対して、最初のうちは笑って「また言われた(笑)」みたいに、ギャグにしてたんだけど、そのうち、そういう手紙もぱったりこなくなっちゃったんですよ。ということは、みんな諦めたか、嫌いな人は読まなくなったってことじゃない? 
 
 叩かれるのはね、もうしょうがないというか。だってみんなが私のことを好きなわけじゃないじゃん。嫌いな人もたくさんいると思うし。
 
──そう思えるようになったのは、何か具体的な出来事があったんですか?

中村:なんか嫌われることに慣れちゃったっていうか。いろんな人からあまりに嫌われたり、怒られたりすると、それがもう普通のことになっちゃって開き直ったというか(笑)。

──嫌われることにも慣れるんですね。

中村:そうですね。ただ、嫌われる相手が世間だったから、顔がないわけじゃないですか。例えば、職場とかで嫌われたら不快な目に遭うけど、私の場合はネットで叩かれるとか、抗議の手紙が来るくらいで別に実害がなかったから、脅威に感じなかったっていうのもあるかもね。

自分にとっての幸せが何か分かっている人は、生きやすい

──周囲からの横槍に負けず、人生を進んでいくにはどうするのがいいですか?

中村自分の幸せなんて他人が決定することじゃない、そこだけはわかってほしいです。
他人からの横槍っていうのは、たいてい「あなたのためを思って言ってる」とか言うんだけど、もしそのアドバイスに従って私が失敗しても、占い師と同じで絶対にその人は責任とらないじゃないですか。

 言い逃げっていうかさ、アドバイスするだけして逃げちゃうみたいなね。
「こうしたらどう?」みたいな提案を友達から受けるのは悪くないと思うんだけど、「こうしなさい」とか「こうすべきだ」とか他人の言う通りにしても、失敗したときに災難が降りかかってくるのは自分じゃん。
 
──そうなったら、人の言う通りにしなきゃよかったってなるだけですよね。

中村:だから、自分にとって何が幸せかってことをわかっている人は、ある意味生きやすいと思う。そうなると、世間から落ちこぼれと言われようが、自分の好きなことやって生きているのがいいってわかってるんで、べつに商社とか入って出世している人が羨ましくもないだろうし。

 迷ってもぜんぜんいいんだけど、ある時期、これで生きよう! みたいに思っちゃえば、ものすごく楽になる。そして、他人が言うことをどこまで真に受けるべきかっていうのも、はっきりしてくると思う。そうなったらこっちの勝ちなんですよね。
 
 ただ、それが理由でハブられたり、いじめられたりしましたって言われても、私は、どうしていいのかわからない。

 会社ではいい顔して、プライベートは自分の好きなように生きるみたいな、そういう使い分けがいいのかもしれない。会社ではそういう会社の顔をしておく、みたいな。

 仕事は仕事でお金をもらっているから、割り切って周囲と合わせることは必要なのかもしれないけど、プライベートでは好きなことをして、自分の幸せはここだってものをみつけていけば、横槍は気にならないんじゃないかな。

(文/渋谷チカ)

中村うさぎ
1958年生まれ。福岡県出身。同志社大学英文科卒業後、OL、コピーライター、ゲーム誌のライターを経て、1991年にライトノベル作家としてデビュー。『ゴクドーくん漫遊記』がベストセラーになる。
その後、自身の壮絶な買い物依存症を赤裸々に綴ったエッセイシリーズで大ブレイク。
以降も、ホストクラブ通い、美容整形、デリヘル嬢体験を通じた、女の生き方や女の自意識に関する著述で多くの支持を集め続ける。

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