子育てと恋愛に共通する“不自由さ”

池谷:恋愛では「この人のためなら何でもする!」とぞっこんになります。これと同じように、子育ても、親は子どものためだったら何でもできます。子育てはめちゃくちゃ不自由なことですよね。中には、育児うつになったり、子どもを虐待してしまう例外もありますが、世の中のほとんどの人は、子どもに振り回される不自由さを楽しんでいるわけです。

――そうですね。子育てはお金も時間も体力も使うし、不自由ですよね。

池谷:そうです。ちなみに、実は男性の子どもへの愛情は、最初はお母さんの愛情ほど強くはないんですが、子育てに参加することで、オキシトシンなどの愛情ホルモンの量がお母さんの脳と同じレベルにまで増加することがわかっています。子育てに参加すればするほど、人の目を気にせず、ブログやSNSに写真を投稿しまくるバカパパになります(笑)

――このとき、脳は恋愛しているのとほぼ同じ状態になっているってことですよね。

池谷:親バカだと外から醒めた目で見られていても、本人はまったく気づきません。まさに、恋愛と同じ構造ですね。

――振り回されればされるほどハマるというのは恋愛でよくありますよね。

池谷:そう。だめんずに惹かれてしまうのも不自由が楽しいから。「彼は私がいなきゃダメなんだから」とか「この女、俺がいないとダメなんだよ」とかは、手間がかかるからこそ熱中するという心理構造です。人は基本的に他者に束縛されたい生物なのです。

――支配や束縛をされるのは対等な恋愛じゃない、とよく言われるので、ダメなことだと思っていました。

池谷:とかいいながらも、いざ「君の自由に好きにしていいよ」と言われたら、愛されてる感じがしないですよね。それよりは、「来週の日曜日、空けておいてね」と予定を拘束されたほうが、私と一緒にいたいんだなと愛情を確認できる。束縛されて不自由になりたいというのは、人間の自然な感情だと思いますよ。

後編:コーヒーと拘束プレイは似ている!?全人類は苦痛のトリコへ続く)

(文/朝井麻由美)

池谷裕二
薬学博士で東京大学薬学部教授。脳研究者。
主な著書に『進化しすぎた脳』『海馬』(糸井重里氏との共著)、
『脳はこんなに悩ましい』(中村うさぎ氏との共著)などがある。
ツイッター:@yuji_ikegaya

関連記事
恋愛は人類の進化がつくった最高の無駄!20万年前の恋愛観を専門家に聞いてみた
結婚し、子供を産む。これらには「恋愛」が絡んでくる…「自然(=地球)は子孫から借りているもの」という言葉にあるように子孫反映のため、のみならず自らの価値を確認したり、愛されることを目的とした【恋愛】とはいつの時代から始まったのだろうか。――肩の力を抜いて過去の恋愛を学び今を生きてみませんか?