脳研究者・池谷裕二さんインタビュー

人間はみんな、支配されたがっている!/脳研究者・池谷裕二さんに聞く「支配されたい」の正体(前編)

特集『「支配されたい」の正体』にあわせ、脳研究者として多数の著書を出版した東大教授・池谷裕二先生にお話を伺いました。女性のほうが強いと思われがちな被支配欲求は、実は男女が平等に持ち合わせているものだった!など、恋愛のメカニズムにかかわる根幹的な問題まで盛りだくさんでお届けいたします。

AM 特集 支配されたい 脳研究 池谷裕二脳研究者・池谷裕二さん

 『男の人に支配されたい?』と問うと、おそらく女性の半分くらいは「はい」と答えるのではないかと思う。「いいえ」と答えた人の中にも、「自分が認めた人ならば、支配されるのもやぶさかではない」と考えている人は少なからずいるはずだ。私は後者に当てはまる。そして、支配されたい人は、支配されることに快感を覚えているはずである。古くから女性向けの漫画やゲームにも、“男性が女性をリード(支配)する”というものが多い。なぜ、支配されることは心地いいのだろうか。“支配”は“束縛”や“不自由さ”とも言い換えられる。決して印象の良い言葉ではない。支配されたい気持ちの正体について、脳研究者の池谷裕二先生(以下、池谷)に聞いてみた。

女性だけでなく、男性も支配されたい

池谷:そもそも、男性よりも女性のほうが被支配欲求は強いって、本当にそうでしょうか?

――うーん、そういうイメージはありますけれども……。漫画やゲームでも女性向けのものはそういうのが多いですし。

池谷:そう、おっしゃる通り、女性のほうが支配されたい欲求が強そうなイメージはあるんですよ。でも、男も似たような願望を持っていることは珍しくないと思います。
ただ、支配する欲求は、男性のほうが強いことは間違いないようです。実際、社長になりたいと思っている人や、あるいは実際に社長になるような人は男性のほうが多いですよね。

――ああ、じゃあ、男性は支配する欲求も、支配される欲求も、両方強いってことですか?

池谷:そうそう。女性は支配欲求が強い人は比較的少ない。女性社会では人間関係を大切にする傾向があります。ですから、強い支配欲求は集団生活を送る上であまり有利に働かないものです。つまり女性は、支配欲求が弱く、結果として相対的に被支配欲求が強くなるのではないかと思います。

――単に男性が支配、女性が被支配、と分担されているのではなく、男性は支配したいし、支配もされたい。女性は支配したくないけど、支配はされたい。ということだったんですね。

人間は「自由」が苦手

池谷:僕ら人間は、大海原にぽんと放り出されると急に不安になるものなんです。どこに行ってもなにをしてもいいよと言われると、自由なので一見嬉しいことに思えますが、実はダメ。小学生の頃、夏休みの宿題に自由研究がありましたが、意外と困りませんでした?

――困りました。何をすればいいか全然わからなかったです。

池谷:それと同じで、人間は「何をしても自由だよ」と言われるのが苦手なのです。小学生どころか、うちの研究室の学生ですら、自由に研究をしていいよ、と言われると研究に手がつきません。だから、最近はこんなテーマが流行っているよ、などと選択肢を与えるか、それでも選べない人には、テーマをこちらから指定します。そのほうが学生も飛びつくし、上達していくんですよ。

――そうなんですね。

池谷:スポーツも同じで、サッカーって、よく考えたら変じゃないですか?

――変?

池谷:だって、ボールなんて、そもそも自由に手で扱えばいいはずです。それなのに、手を使ってはいけないというルールが作られて、その制限の中でスポーツをしている。これも支配欲求の表れです。外部の者にルールを作ってもらって、その不自由さを楽しむ。これがスポーツなんですよ。つまり、基本的に僕ら人間は、不自由が楽しいんです。ルールに従うほうが好きということなんです。