脳研究者・池谷裕二さんインタビュー

コーヒーと拘束プレイは似ている!?全人類は苦痛のトリコ/脳研究者・池谷裕二さん(後編)

特集『「支配されたい」の正体』にあわせ、脳研究者として多数の著書を出版した東大教授・池谷裕二先生にお話を伺いました。おしっこすると気持ちいいのも、コーヒーがおいしいのも、ゴジラが面白いのも、セックスが快感なのも(!)、すべてはマゾだから?「人間は生まれたときから支配されている」という興味深いお話です!

AM 特集 支配されたい 脳研究 池谷裕二
脳研究者・池谷裕二さん

 束縛されたいと思ってしまうのはなぜか。誰かから支配されるとなぜ心地いいのか。前編では、脳研究者の池谷裕二先生(以下、池谷)に支配と恋愛感情について伺った。では、セックスではどうだろうか。セックスにおいては、男性が支配し、女性が支配される、という構図が浮かびやすくもある。

苦痛を快感に錯覚させる脳の仕組み

――セックスにおける支配・被支配といえば、SとMがありますが、これはどういった仕組みで快感なのでしょうか?

池谷:マゾヒズムにおける快感は、負からの差分によって生じる快感です。例えば、僕は犬を飼っていますが、犬が一番喜ぶのは、単にご飯をもらう時ではなく、大嫌いなお風呂から出た瞬間なのです。

――ご飯をもらうだけだと、感情がゼロからプラスに動くだけですが、大嫌いなお風呂からのご飯だと、感情がマイナスからプラスに動いて振れ幅が大きい、ということですね。

池谷:そう。その差があればあるだけいいんです。平生の状態からプラスの側にいっていなくても、低いマイナス点から、一気にゼロに戻るだけでも快感なのです。おしっこも、出すときすっきりしますが、実のところ排尿は、液体が高速で尿管を通り抜けるので、痛覚に悶絶するはずなのです。

――そうなんですか?

池谷:赤ん坊はおしっこしたら泣きますが、実は、した後におむつが気持ち悪いからではなく、おしっこする直前や最中に生理的な不快感を抱いて泣いているのです。ですが、大人になる過程で、おしっこをすると気持ちいいことがわかってきます。このように不快のあとに大きな快感が訪れるとわかると、尿意自体が気持ちよくなってくるのです。あんな細い尿道からすごい勢いで液体が飛び出すので、本来は摩擦で痛いはずなんですよ。

――なるほど。脳にうまく騙されてるんですね。

池谷:おしっこを出している間、「痛い」という信号と同時に、「痛くないと思え」という信号も発されます。これは脳の特徴なのですが、痛みを感じたときに、痛い神経と痛くない神経信号が同時に走るんです。たとえるなら、アクセルとブレーキを同時に踏むような感じです。「痛くないと思え」というブレーキ信号がやや強く踏まれた状態ですと、全体としては快感になります。
ランナーズハイも同じ仕組みです。マラソンはどう見ても、本来は苦痛なはずです。脚に過度な負担がかかっていますからね。ですが走っているうちにブレーキのほうが強くなり、気持ちよくなるのです。

――そうだったんですね。マゾヒズム体験がこんな身近にあったとは……。

レイプファンタジーに興奮するのはなぜ?

――リアルなマゾヒズムではなく、妄想の世界ではどうでしょう? 昨今、女性向けのアダルトコンテンツはたくさんありますが、なかでも「レイプファンタジー」は人気の高いジャンルなのだそうです。

池谷:実際のレイプとなると論外なのに、妄想の中では快感ということですね。ホラーやSF、サスペンスなどのフィクションを楽しむことにも近いんですが、現実ではないとわかっていることを想像するのは、実は気持ちがいいんですよ。ゴジラがそこらへんを歩いていたら大パニックですし、ドラえもんだって実際、いきなり机の引き出しから現れたら、大変な恐怖ですよね。ゴジラもドラえもんも、現実ではないとどこかで思っているから脳の中で快感に変わるのです。