「牛筋カレーが食べたい」合コンで知り合った女性と朝まで4回セックス/中川淳一郎

ある初夏の土曜日の夕方、その晩食べる「牛筋カレー」を仕込み終え、近くのコンビニへビールを買いに行った。店に入る手前の道に、2年前の合コンで出会った吉岡さんがいた。彼女は百貨店のバイヤーをしていて、おいしいものに滅法詳しかった。松雪泰子似の美女で、その場では自身のEカップの胸(本人がそう言ってた)を強調する服を着ていた。多分男は皆彼女に興味津々だったはず。

このときの合コンでは結局誰も発展しなかったけど、30代後半同士の合コンというものはあまりガツガツしていなくて同窓会的な雰囲気があり、これはこれで悪くないと思った。

2年ぶりに会った吉岡さんは、ジーンズに白いボタン付きのシャツといったラフな格好だったけど僕はこちらの方が好きだった。目が合った瞬間「あれ、どこで会ったのかな……」と思ったら彼女は近づいてきて「ニノミヤさん、お久しぶり! 以前池袋の合コンで会った吉岡です!」と快活に言った。

そうだそうだ。あのとき一番目立っていた人だ。僕もすぐに分かり、立ち話を始めた。なんと、ご近所さんだったのだ。となれば、おいしい店の話や通勤時間が何時ぐらいか、など共通の話題はたくさんあるわけで、10分間ほど我々はしゃべりつづけた。このとき吉岡さんは特にやることもないので散歩していたとのことで、「ニノミヤさんは何をしているんですか?」と聞かれた。

「ビールでも買おうかなぁ……と思ってコンビニに来たんですよね」

「えっ、そうなんですか? なら、ニノミヤさんも今日は特に用事はないの?」

「ないですね~」

「じゃあ、立ち話もなんだから、私がよく行く店で軽く飲みませんか?

というわけで、我々は吉岡さん行きつけだというカウンターだけの和食バーへ行った。稚鮎の天ぷらや小松菜のお浸しといった軽いつまみを食べながらビールを飲む。僕はけっこう酒が強い方だけど、彼女もペースは相当早い。

久々に喋ってみたけど、大人数でいたときより吉岡さんは無理せず本音を語っているように感じられた。あのときはどこか全体を盛り上げようと道化キャラを演じるとともに、おちゃらけていたけど、サシで飲むと現在の仕事の話や将来的なキャリアについてなど、極めて真面目な話をしつづけた。

互いに40歳手前で独身だったけど、結婚しない理由についても話し合った。彼女はこれまで仕事が忙しすぎたのと、バリキャリでずけずけとモノを言うため男性からはドン引きされることもあったという。今後結婚をしたいかどうかは分からないという。そして僕にも聞いてきた。

「ニノミヤさんはなんで結婚していないの? あなただったらモテないわけでもないでしょ? 年収もそこそこあるでしょうに、感じもいいのにね」

「彼女が3年前まではいたんですけど、交通事故で亡くなっちゃったんですよ。本当は彼女と結婚するかもしれなかったんですけどね」

「そうだったの……。ごめんね、つらい話を聞いちゃってね」

「いえいえ、構いませんよ。全部事実だし、もう戻ってこないのでしょうがないですよ」

そこで一旦この話は終わり、趣味の話に入っていった。僕は週末は特に予定もないので料理ばかりしていることを伝えた。そして今日も牛筋カレーを作っていて、それを食べる前にビールを飲んで晩酌をしようとしていたところ、吉岡さんに会ったのだと伝えた。

「だから、どちらにせよビールは飲みたかったので、今日はこうしてご一緒できてよかったです」

「ふ~ん、牛筋カレーってどんなカレー? 私、食べてみたいな。普通のビーフカレーはよく食べるけど、牛筋って珍しいよね。ニノミヤさんの家に行ってもいい?

まさかの展開だが、幸いなことにそれほどこの店でつまみは頼んでおらず、1時間で生ビールを3杯ずつ頼み、2人ともまだ腹は減っていた。「ならば行きますか」と僕は会計をし、2人して我が家へ向かった。