〝デブキャラ”を演じる主人公と営業のプリンスの隠された秘密

 もともとも私は気が付いたらもう太っていた、生粋のデブだ。
でも元から人のことを嫌がることを引き受けるお人好しだったわけでは、ない。
ぽちゃぽちゃしている方が可愛い、なんて両親の言葉を鵜呑みにしていたこともあって、小さな頃は自分の体型なんてひとっつも気にしていなかった。

「やーい、デブ!」
だから、小学校に入学してすぐにそんな風にからかわれて、初めて自分が太っているということに気付いたのだ。
小学校男子なんて一番遠慮も容赦もない。何度も言わないでくれと頼んでも、先生に注意してもらっても無駄だった。
やられるならやり返してやれと、ずいぶん男の子たちとは戦ったものだ。それでも根本的な問題解決になるわけじゃない。心無い言葉に、幼くても女心は傷ついた。

 だから自然と、わたしは女だけど女じゃない風に振る舞うようになった。同級生たちが憧れにざわめき出しても、甘酸っぱい恋を夢見るようになっても、そんなの関係ありませんって顔をして。
だって、わたしのこと好きになってくれる男の人なんて、いるわけないじゃない?……とかいいながらもその影でせっせとダイエットした。(中略)

 動かない体重計の数値を見ながら「ああ、こりゃもう駄目だ」と思った。
三つ子の魂百までというけれど、何しろ私のアルバムにはまるまると太った写真ばかり貼り付けられている。つまり私はほんの小さな頃から痩せていた時期なんてものがないんだ。
ならもう無駄なあがきは止めたようがいいんじゃないか。
ただの開き直りと言われればそれまでなんだけど、受け入れちゃえばいい。太っているのは自分の個性なんだってね。
(『プリンスは太めがお好き?』P25L13-P27L11)

 身長153センチ、体重60キロ+αという体型に、コンプレックスを持ってるヒロイン、智美ですが、ある時、その太っていることを、『個性』として受け入れることを決意します。
バラエティでよく見かける太めの女芸人を参考に、髪型や服装を変えて周囲の好感度をあげ、さらには、内面も意識して明るくて人のいい“デブキャラ”を演じることに。

 そのキャラ作りは見事成功し、『皆の嫌がる残業を度々押し付けられる』ということは度々あれど、そこそこには充実した生活を送れるように。
そんな智美の働く食品会社には、『営業のプリンス』と呼ばれるエリート社員、黒滝信也がいます。
有名大卒の二十八歳、学生時代に水泳で鍛えた身体に精悍な顔つき。
女性社員を色めき立たせるのはそのルックスだけではなく、営業成績はダントツトップ、実は父親は智美が働く会社の代表取締役社長……。
そんなプリンス、信也と智美の間には、ふたりだけの秘密があったのです。

【後編につづく】

Text/大泉りか

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