緊縛の魅力に惹かれた主人公と
ネットで出会った自縛好き女装家

今日の趣向はもう決めていた。
麻縄二本――これはすでに処理済みのものだ――とボールギャグとアイマスクをクローゼットの奥のボックスから取り出す。カッターナイフの刃を剥き出しにしてテーブルに置き、テープで固定する。ちょうど刃がテーブルのはしから飛び出るような状態で。ここまでが下準備。

私はボールギャグ――猿轡の一種だ――のピンポン球の部分を咥え、頭の後ろで留め具をひっかける。アイマスクで目蓋を覆う。

麻縄を乳房の上と下にまわして締めつけたあと、みぞおちを縛り、股間にとおして留め縄を引き絞る。もう一本の縄で正座した脚にも縄をかける。(中略)
はじめのころとは違って、いまは手首だって上手に縛ることができる。しかも、決してほどけないようなやり方で。最低限の逃げ場だけは絶対に必要ではあるものの、いつのまにか自分を追いつめるような縛りかたでないと満足できなくなっていた。
(『自縄自縛の私』P12L16-P13L11)

ひまを持て余していた大学生の頃、インターネットのサイトを見ながら、自分の身体を縛ったのをきっかけに、縄さえあれば生きていける(『自縄自縛の私』P14L12)と思うまでに、縛りの魅力に憑りつかれてしまった「私」。
もしも、その特殊な性癖を、恋人にもわかってもらえたなら、カップルでの緊縛プレイを分かち合うことができたかもしれません。
しかし、不幸なことに理解を得ることはできず、それ以後、諦めでもって、自縛の道へと突き進んでいきます。

が、誰にも言えないこの性癖に、たったひとりだけ理解を示してくれる男性がいました。
インターネットで知り合ったWという男性。彼もまた、女装自縛愛好家。

フツーのOLが緊縛の味を知り、女装かつ自縛好きというマニア紳士と出会えるインターネットすごいとしか言いようがありません。

【後編に続く】

Text/大泉りか