秘密を共有することで解放された孤独『自縄自縛の私』(後編)

 前編に続き、『自縄自縛の私』のヒロインに迫ります。

誰にも言えない性癖を共有することで解放される孤独

自縄自縛の私 新潮社 蛭田亜紗子 大泉りか 官能小説 Bhumika.B

 恋人になりやすい条件として「共通の趣味がある」というものがあります。
また、恋人関係を続けていく上で「セックスが合う」というのは大切な要素のひとつです。
趣味があって、セックスが合う、となれば、まさに恋人としてピッタリ……と言いたいところですが、世の中、そうは上手くはいきません。

自縄自縛の私(蛭田亜紗子さん著)のヒロインの「私」は自らを自らで緊縛する『自縛』という性癖の持ち主。
そんな、誰にも言えない性癖を持つ「私」の唯一の理解者がインターネットを通じて知り合ったW氏。
四十代後半の家庭持ち会社員というW氏も「セルフボンデージを愉しんでいる」という同好の志。
まさに趣味もセックスもぴったりと合うはずのふたりであるはずですが――。

 ラブホテルの部屋は、珍しくロフトつきだった。
W氏は下のベッドを使い、私はロフトを使うことにした。
ふたりでひとつのベッドに乗って、そっぽを向いたままそれぞれ自分自身を縛り上げるのは、ひどくまちがっているように思えたからだ。
(中略)
 上半身を亀甲の模様に縛り上げたあと、べつの縄を取り出し、両足首に何度も這わせて固く結ぶ。
最後に手首を後ろ手に引き絞って逆海老縛りのかたちになると、もう、私の筋肉は力を保つことができなかった。
縄に包まれた躰は、ぐにゃぐにゃに溶ける。
(中略)
 わたしはやわらかな殻になる。殻の内側には何も存在しない。空っぽだ。
 外側もいちめん、無の空間になる。
 W氏の息遣いはもう、耳に届かない。 (『自縄自縛の私』P37L10-P38L5)

 残念なことにそれは『自縛』なのです。
自縛に必要なのは自分の身体と縄。
寄り添うことはできても、交わることはできません。
しかし、W氏と秘密を共有することで、「私」の、孤独は、少しだけ解放されたようにも思えます。