売れないモデル、上原美羽が再起を望むオーディションのために
高3の夏、東京に遊びにきたときに原宿でスカウトされ、高校を卒業するのと同時に上京してきた。スカウトされたといっても、あまたの仕事が用意されていたわけではなく、俗にいうモデルの卵だった。人気モデルになろうなどと、大それた野望があったわけではない。 自分ごときがそんなふうになれるはずがないとクールに見極めながらも、「東京でモデル」という甘美な響きにまいってしまった。
大学にいったと思って四年間好きにさせて欲しい、と大反対する両親を説得した。
成功するための下積み期間、というつもりではなかった。 田舎町で普通に暮らしてたら見ることのできない華やかな世界を、ほんのちょっとだけのぞいてみたかったのだ。 カッコ悪い言い方をすれば、青春の思い出づくりというやつである。
(夜ひらく P16L2)
が、現実は甘くありません。
有名コンテストで賞を獲得し、スター街道を約束されてデビューするようなごく少数の例外をのぞけば、モデルが仕事をとるために実力者に体を与えることはこの世界では半ば常識なのだった。
(中略)
さして輝きがあるとも思えない同期が次々にいい仕事をゲットしていく様子を横目で見ている日々が一年も続くと、田舎育ちの鈍な娘でもさすがに勘づいた。(夜ひらく P17L12-P18L1)
綺麗ごとだけでは渡っていくことのできない芸能界。
そこに馴染めずにいる自分はモデルとしての未来になんの期待ももっていない。
けれど、せめて、青春の“輝かしい思い出”のひとつくらいは欲しい……。
そう思い悩んでいたある日のこと、ヒロインの元に大きなチャンスが訪れます。
二、三十代をターゲットにした雑誌の中でも、最大部数を誇る名門ファッション誌『リッシュ』のモデルオーディションを受けることになったのです。
名門ゆえ、コネも寝技も通用しないこのオーディション。
一発逆転できるチャンスの到来に「なんとしてでも合格したい」と思う実羽でしたが、同時に悩ましい問題が浮上します。オーディションに臨むにふさわしい洋服を持っていないし、買うお金もない……という悩みです。
Text/大泉りか
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