香奈は黒のニットカーディガンの下に、焦げ茶色のノースリーブのワンピースを着ていた。僕の目の前で座布団に座ろうと屈んだとき、膝丈のスカートの裾の隙間から一瞬、ストッキングの太ももあたりのステッチが見え、さらに視線をあげると、今度は少しあいた胸元から乳房の谷間と真っ赤な下着が見えた。

 僕は勃起しそうになっていた。ガーターをつけているかどうかはわからなかったけれど、太ももで留めるストッキングに、赤い下着をつけている。
たかだか仕事の日、しかも新人歓迎会があることがわかっている。ということは、それだけの日でもそれくらい手を抜かない女か、もしくは深夜に夫以外の男に会う予定があるのか。

 どちらが正解でもよかった。絶対にこの女とやってやると、勃起しかけた性器の位置を気づかれぬように直しながら僕は思った。(私の奴隷になりなさい P12L7-P16)

 この物語の主人公の‟僕”は、童貞を喪失して以来、望む通りにセックスをしてきたヤリチンです。
二十四歳にして、普通の女の子と口説くことにはすでに飽き、わざと恋人のいる女の子と狙ったり、会社の先輩に連れていかれたキャバクラで金をかけずにホステスを落とすことに熱中したり、処女の高校生から人妻までかたっぱしからナンパしたり、仕舞には友人知人の奥さんや恋人にまで手を出すといういまどき珍しい肉食系チャラメン。 そんな、ラーメンで言えばチャーシュー大盛りな“僕”なのですから、新しい職場で出会った色っぽい人妻・香奈に目をギラつかせないわけがありません。

 しかし、香奈はいくらアプローチをしてもまるでなびくことなく、‟僕“の思いは狂おしくつのるばかり……。
ところが、二か月ほど経ったある日のこと。香奈から突然「今夜、セックスしましょう」というメールが届きます。ようやく香奈を抱けるという喜びとともに、いったいなんの心境の変化かと、少し怖くも思いながらラブホテルへと向かった“僕”が、部屋へとチェックインすると、香奈はビデオカメラを取り出し、自分の姿を映像に撮り続けるように“僕”に告げます。

「カメラは持っていて。私の顔を撮っていて」
優しく少し淫乱な感じのする声だった。でも、キスで香奈も感じてきたのだろうかと喜ぶ余裕はなかった。その声は断れない命令のように聞こえた。
僕は再びカメラを手にした。(中略)
さっきよりはゆっくり優しく、舌で香奈の唇を舐め、やがて口の中へと差し込んだ。唾液で濡れた香奈の舌がそこにあった。僕はその舌に自分の舌を巻きつけるように吸いだしだ。香奈のほうから舌を絡めてくることはなかった。しかし、僕の愛撫に応えるように反応し、きつくあわせた唇から、「んっ」という甘い吐息が漏れ出した。
 僕は自分の身に起きているおかしなことへの疑問と怖れがすべて吹っ飛ぶくらい興奮していた。
(私の奴隷になりなさい P29L4-P15)

 しかし、実は香奈が“僕”に身体を許したのは、香奈の意思ではありませんでした。夫でもない‟第3の男“の命令で香奈は“僕”とセックスをしたのです。

【後半へ続く】

Text/大泉りか

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