『乙女のままじゃいられない!』石田累・著
あらすじ
大好きだった予備校教師の篠原柊哉に、彼と自分を登場人物にした自作のコミックを手渡して告白したものの、あっけなく玉砕した上に周囲に知られて嘲笑の的となり、高校を中退するまでに傷ついた坂谷由南。
ショックをバネに上京し、見事少女漫画家としてデビューを果たして、一時は人気漫画家として成功を果たしたものの、由南の『少女漫画の限画はべろ入れなしのキスまで』という信念は時代に取り残され、やがて落ち目に。
そんな時、ある大企業絡みの企画で、漫画を書くことを指名される。ただし条件は、“キスシーンは三回以上、ベッドシーンは最低でも二回”。
おまけにその企業の社長は、かつての因縁の相手、柊哉だった。
柊哉は由南の漫画に散々ダメ出しをした挙句……。
「全部お前のものだ。……期限付きだけどな」
何故かその言葉だけできゅうっと胸が締めつけられた。
篠原が首を傾げたので、由南は思わず顎を引く。――驚く間もなく、もう一度、キス。
先ほどと同じ優しいキスは、由南の閉じた唇の上を、甘く、ソフトに撫でていく。由南は胸が苦しくなって、ほとんど無意識に篠原の胸に手を添えていた。
知らなかった。キスがこんなに苦しくて、息もできないものだったなんて。
キスが角度を変える度に、篠原の唇から吐息が漏れる。それがますます由南の胸を苦しくさせる。自分の感情の変化に戸惑っている内に、閉じた唇の間に濡れた舌が滑りこんできた。
「……っ、……っ」
言葉にならない悲鳴みたいなものが喉の辺りにまで押し寄せる。
心臓が爆発しそうに踊っている。そのあたりの機能は、もうとっくに濡れているに違いない。歯を食いしばったまま、由南は篠原のシャツを強く握り締める。
熱く濡れた舌は、由南の上唇と下唇の間を執拗に舐め、軽く歯をあてて吸い上げる。その官能的な動きに、何故か唇ではなく下肢の中心が痺れてくる。いつしか由南は立っていられなくなって、気づけば篠原の胸に抱き支えられ、彼のなすがままにキスをされ続けていた。
「口開けろ」
「いや……です」
ほとんど夢うつつになっていたが、由南はまだ唇をぎゅうっと引き結んだままだ。由南の額に自分の額を押し当て、篠原が掠れた声で囁いた。
「開けろ、入れたい」
くらくらっと眩暈のようなものに引きずられて、由南は唇を開いていた。かすかに呻いた篠原が、すぐに舌を差し入れてくる。
「や……篠原先生」
「大丈夫、誰も来ないよ」
現実のキスの、想像を超えた淫らさに、由南はもう声も出ない。
なのに、少しも嫌ではないのだ。それどころか、もっと深く、篠原のことが知りたくなって……。
(乙女のままじゃいられない!P126L9-P127L17)
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