濡れてきたらゆっくり挿入〈雀翼法(かくよくほう)〉

お次は、雀翼法(かくよくほう)について。

女をうつふきにはハしめて男その尻にかしこまり女の腰にとりつきて、玉茎をもつて玉門の中へ這入ぬやうぬらつかすべし。其とき玉門はれてふくれあがりて淫水ながれ出たるときに玉茎を少し入べし。そろ/\あしらへば玉門の中なる相図に居直り右のごとし。

〈現代訳〉

女性はうつ伏せになり、男性はその尻にかしこまり、腰につき男根が挿入できるように女性の陰部を濡らす。女性の性器がふくれてきて淫水が流れてきたら男根を少し挿入する。
ゆっくりともてなし女性の性器の具合にまかせる。

春画 歌川国芳《吾妻文庫(あづまぶんこ)》1838年

「雀翼法(かくよくほう)」はイメージとしては上のような体位でしょうか。
女性はお腹も胸もぺったり床につける姿勢なのか、腰は浮かせてよいのかだろうか。
ポイントは濡れてからゆっくりと挿入することのようですね。

この『新撰古今枕大全』の体位の記載の前文にこのような内容が書いてあった。

男の物、あながちにふときにもよらず、喜悦の薬をつけられたにもよらず。ただ取かかりより、よく女の心をうごかし玉門にうるほいミちるをまちて静にそろそろとぬきさしをして、さあ今ぞよいとおもふたうちに、おしかけて急に腰をつかハるれバ、たとへ一物ハほそくちいさきものにても大分こころよく気をやる事なれども

男根は必ずしも太いものが良いわけでもなく、快感を増す薬を使えば良いわけではない。心が満たされていることや、濡れていることなどの様々なタイミングを確認し、緩急を大切にすることはどのような交わりにおいて重要だと記されている。

様々な種類の性典物があれど、江戸期の性典物で重要とされていることのひとつが「お互いに気持ちが満たされている心地よいセックス」であった。
わざわざ体位の内容の前文にこれらのことが記されるくらいだから、「世の中はちんこの大きさに依存しすぎだ!大切なのはタイミングと緩急だ!」という著書の想いもあったのかもしれない。

男性はみだりに腰を動かすな〈竜虎法(りゅうこほう)〉

最後にご紹介するのは、竜虎法(りゅうこほう)。

男子座して両の股をあはせ両足をそろへさし出し、女の両の股をひらきおとこの内ももの上に座し両足にて男のこしをはさミ、玉門玉茎和合す。是を今どきの俗にいふ茶臼なり。さて玉門の中うるほひほめきて淫水ながれ、女腰を動かし振るといへども、みだりに腰をつかハず。先口をすひ背をなでさすりてそろ/\と腰をつかへバ、女たへかねるとき居直り右の如す。

〈現代訳〉
男性は両足をのばして座り、女性は足を開いて男性の内ももの上に座る。女性は男性の上に座った状態で男性の腰を足ではさみ和合する。
この体位は今どきの茶臼と呼ばれる体位だ。女性が濡れて腰を動かしても、男性はみだりに腰を動かさないこと。口を吸い、女性の背中を撫でさすりそろそろと腰を動かせば女性はさらに気持ち良くなる。

春画 勝川春潮《好色図会十二候(こうしょくずえじゅうにそうろう)》1788年頃 芸者と客。男性の右足。

竜虎法(りゅうこほう)は、女性が男性の上に座る体位のことである。
個人的に座位は男性が腰を動かすタイミングと女性が動くタイミングがちぐはぐだと、そちらに気を取られてしまい集中できない体位だと思っていた。なので「男性はみだりに腰を動かしてはならない」の文に共感してしまった。

春画 喜多川歌麿《艶本常陸帯(えほんひたちおび)》1800年

今回ご紹介した『新撰古今枕大全』は全体的に男性向けのハウツー本となっているのだが、この体位の説明の前文に「女性たちはこれらの心得などを男性に伝えるように」といった女性に向けた念押しのような文も見受けられたので、女性の読者も意識していたようだ。

最初からセックスがスムーズにできる人なんていないだろうし、江戸期ともなると学べる手段として性典物に頼るところも大きかったであろう。それに、わざわざこのような本を読もうと思った当時の人々は性を楽しむためにとても熱心だったろうと感じた。

Text/春画―ル