「最中の月」の芋バージョン!?その名は「最中の月いも」

春画 甘藷百珍 寛政1 [1789] 国立国会図書館所蔵

江戸時代に刊行された『甘藷百珍(いもひゃくちん)』という本は、サツマイモを使った料理123種類のレシピを掲載したサツマイモ好きにはたまらない料理本。

この本の中に「最中の月」をサツマイモでつくった「最中の月いも」という見立て料理が掲載されている。

【最中の月いも】のつくりかた

1 いもの精(じん。サツマイモでんぷん)を水で溶き、薄い葛湯のような状態に炊く
2 1が冷めたら、いもの精の粉を加えてだんごのようにこねて打ちのばす
3 5-6センチくらいの円に切り焙炉(ほいろ。茶葉などを乾かす乾燥機の一種)にかける
4 ザラメの砂糖を入れて生地をこねるとよいでしょう

春画 火の加減が分からずサツマイモでんぷんに遊ばれる図

「最中の月」のヒントになるのでは?と思い「最中の月いも」も再現することに。
餅米粉に次いで、サツマイモでんぷんに遊ばれながらも頑張ってつくります。

春画

「うまく生地がまとまらない!どうしよう!」と焦る休日の昼下がり。

そもそも最中は買って食べるものだと思い込んでいた29年間の人生。
まさか最中を手作りするなんて想像もしていなかった。

ここ数年は江戸料理ブームで大手レシピ投稿サイトでもレシピが紹介され、古典が身近に感じられる様々なプロジェクトが国内で企画されている。

今回はあえて「ネットで検索しても簡単に得られない情報をみなさんに提供したい」という強い想いがあり、自分で文献を調べて再現したため本当に手探りでの再現企画だった。

そんな想いが詰まった「最中の月いも」がこちら!

春画

見た目は「最中の月」とそっくり!

味はさっくり してて、わたしはこちらの方が好みだった。
ムチムチ食感好きは餅米で。さっくり好きはサツマイモでんぷんでつくると旨いだろう。

『甘藷百珍』の「最中の月いも」の大きさは5-6センチくらいの丸形ということだから、吉原名物の「最中の月」もそれくらいの大きさだったのだろうと感じた。

また「最中の月には餡子が入っていた」や「最中の月は実はあんころ餅」などと書かれている文献も見かけたのだが、見立て料理である「最中の月いも」に餡子が登場しないことからも「最中の月」は餡子が入っていない白色の煎餅風菓子であったと思う。

春画 古今名婦伝 万治高尾 安政6 国会図書館デジタルコレクションより  想像上の高尾太夫

余談なのだが、吉原と最中に関するこんな逸話がある。
吉原遊廓の”三浦屋“お抱えの名妓・高尾が餡子入りの四角い形の最中を客にもてなした時、客が「この菓子の名は?」と尋ねると、高尾は即座に「窓の月」と答えたそうだ。
「月は何処に?」とさらに尋ねると、高尾は静かに行灯の灯りに最中をかざして見せ「月はこの中に。」と言ったそうだ。そのとき行灯に照らされた最中の餡子は丸くかすんで月の所在を示していたようだ。

春画 最中の皮から透けた餡子が丸い月のようだ

こんな感じで最中の皮が行灯の灯りで透けて餡子が月のように見えたのだろう。伝説の吉原の遊女として名が残る高尾らしい素敵な逸話である。

春画 青楼美人合姿鏡. 上 安永5(1776)刊 国立国会図書館デジタルコレクションより

遊女も大好物だったかもしれない江戸吉原の名物菓子『最中の月』は「煎餅」に似ていた。

江戸期の献立には砂糖がほとんど使用されることがなく、甘味つけにはミリンを使用していた。砂糖は高価なため、砂糖を使用した菓子も当然高級品だったのだ。

丸くて白い最中の月をお口に頬張れば、江戸人たちもさぞかし幸せな気持ちになったでしょうね。

「最中の月」はおうちで手作りできます。
気になる方は是非つくってみてください。

《おまけのレシピ》

◆再現「最中の月」の分量

もち米粉…160グラム 水…80ml ザラメ…大さじ1と2分の1

◆再現「最中の月いも」の分量

サツマイモでんぷん…80グラム 追加したサツマイモでんぷん…80グラム
水…200ml ザラメ…大さじ1と2分の1

1.各材料をボウルの中で混ぜて生地をつくる。

2.フライパンで直径6センチの丸形になるように生地をつぶしながら平らに焼けば吉原遊廓名物 竹村伊勢の『最中の月』の完成!

《参考文献》
製菓製パン = The journal of baking and confection : 全日本菓業新聞連盟加盟誌. 28(2)(337) 製菓実験社
お菓子の百科 柴崎勝弥 光琳書院
吉原風俗資料 蘇武緑郎 編 文芸資料研究会
いも百珍 株式会社大曜

Text/春画―ル

前後の連載記事