「ひとはなぜセックスをするのか?」ラブグッズの関係性
次に「相手に気持ちよくなってもらうための性具」としては、鎧形(よろいがた)や兜形(かぶとがた)、肥後随喜(ひごずいき)などがある。
「兜形(かぶとがた)」には「水牛の角」や「べっ甲」などが使用されるそうで、亀頭を覆う形状のため、精液が膣に入るのを防ぎ、避妊効果があると書いてある。これらの性具は男性側への感度が鈍くなるため、快感を得るためのものではないのだろう。
「ひごずいき」はハスイモの茎を干したもので、しっかりアク抜きをしないと「ひごずいき」に含まれるチクチクする成分が皮膚を刺激し、痛くなってしまうそうだ。しかし、そのチクチクが膣を刺激することで熱くじれったくなり、挿入による刺激をさらに求めてしまうこともあるとか。
以前スーパーマーケットで購入した「ひごずいき」をアク抜きせず煮込み食べてところ、口の中にものすごい激痛が走り、水を飲んでも歯ブラシを使用してもしばらく痛みが収まらなかった。この「ひごずいき」が膣粘膜を刺激すると考えるとかなりゾッとする。現代でも「ひごずいき」でできたアダルトグッズが販売されているが、知人曰くその使用感は、かゆいとのことでした。
これらの男性器に装着する性具は、男性側の感度が鈍くなってしまう。それでもなぜ男性は敢えて性具をつけるのかというと、「そもそもなぜマスターベーションではなく、セックスをするのか」という当時の価値観が見えてくる。
渓斎英泉「閨中紀聞/枕文庫」によると、「和合とは“男女ともに心地よくなること”であり、自分の快楽だけを追及することは慎むべきことで、神も仏も聖人も和合の道よりはじまった。そのため、夫婦の営みはおろそかにしてはいけないが、男女間でオーガズムを感じるまでの時間に差があるため、女性に気持ちよくなってもらい挿入の準備を整え、男性が早くに射精してしまうことを防ぐためにラブグッズを使う」としている。
200年前の性の指南書にも「パートナーとセックスをする意味」を「互いに気持ちよくなるため」としていることは、驚きであると同時にとても基本的なことを示していると感じる。パートナーとの付き合いが当たり前になり、思いやりの心を忘れるとその基本を見失いがちになるからこそ、現代を生きるわたしたちも見習うべきだと思う。
以前、春画や江戸時代の性具をコレクションしている方から聞いたのだが、男性が装着する「鎧形」などの性具はオーダーメイドで制作されていたそうだ。そしてこれらは、水牛の角やべっ甲で制作されており、当時では簡単に手に入らない高級品でもあった。男性がわざわざ自身の感度が下がる性具に大金を支払ってまで装着することは、女性に対して「これらの高級な性具をこしらえるほどに、あなたのことを大切に想っています」のメッセージが込められていたそうだ。そしてこれらの性具を用意できることは、男性のステータスにもなったのではと考えられる。
奥さんにひごずいきの巻き具合を聞きながら楽しむふたり。葛飾北斎の描いた春画には、家族の外出中に夫婦で愛し合う場面が描かれている。
江戸時代の性具の発達は、当時の人々が今よりもエロかったり、性にオープンだったというより、性の欲求が当たり前に存在することを認め、和合を大切に考え、相手との身体の関係を継続させるにはどうしたら良いのかを考えていたのではなかろうか。
もし今、性具(アダルトグッズ)を使用することに抵抗を感じている方がいるなら、それらを使うことでマンネリが解消されたり、セックスの娯楽要素が増えて楽しめるようになったり、パートナーと良好的な関係を築くきっかけになるかもしれない。
セックスに不満があるなら「なんのためにセックスをしているのか」「どうしたいか」を考えパートナーと楽しむべきだな、と春画をみながら考えてしまった。
Text/春画―ル
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