ビデオの普及はAVのおかげ?
「ビデオデッキが家庭に普及したのはアダルトビデオのおかげである」という都市伝説めいた言説がある。
もう少し正確に言うと、日本ビクターの制作したVHSとソニーの制作したベータマックスがしのぎを削る「VHS/ベータ戦争」において、最終的に、アダルトに強かったVHSが家庭に普及することになった、というストーリーだ。聞いたことがある人も多いだろうと思う。
「AVを研究してるんですよ」と自己紹介すると、自称「事情通」ほど、この話を得意げに私に教えたがる。
特に最近は、「VR(バーチャル・リアリティ)技術を引っ張っていくのはエロだ! ビデオがそうだったように!」という形でこの話が聞かれることが多くなった。
たしかに、「VHS/ベータ戦争」の真っ只中、「裏ビデオ」(性器のモザイク処理がなく正規の流通に乗らないAV)が観たいという男性の欲望を利用して、ビデオデッキがセットで売られていたことはおそらく事実だろう。
そして実際、裏ビデオ目当てで高価なビデオデッキを購入した人々も一定数いたことだろうと思う。
その程度には、この都市伝説は間違ってはいない。
だが、エロの力だけでほとんどの世帯にまでビデオデッキを普及させることは、本当に可能なのだろうか?
ビデオデッキの普及には複雑な市場の力学がはたらいていたはずなのに、ビデオの歴史を辿ると、なぜかアダルトな話ばかりだ。
このように性がもつ力を過大評価した噂が広まったのは、「アダルトビデオ」の誕生以前から、ビデオテクノロジーにエロのイメージが結びついていたからではないか、とする研究がある。
それでは一体、「アダルトビデオ」誕生前はどのようにビデオとエロが結びついていたのか?
今回のテーマは、そんな「AV前史」である。