みんな戦っていた、最後の最後の引退作

序盤は、青年がとにかく順調に走る上に、新宿から高尾までひたすらまっすぐな道が続くため、使えそうな映像が撮れずに不安がるスタッフや、大人達を走らせたまま、自分だけチョコレートを食べて「おもしろくないからさー」と、いたずら顔でどうしたら映像が面白くなるか思案する平野監督の姿などなど、地味面白い映像が続きます。

しかし、些細なミスがきっかけで、「上原亜衣 孕ませ隊」と大きくプリントされたTシャツを着たまま、ケータイもお金も持っていない青年を迷子にさせてしまったり、スタッフが食料難になったり、気温が五度に冷え込んだり……と、次第にアクシデントが勃発します。

それでも走り続け、足が震えても歩き続け、撮影地が近づくにつれて、なんと青年は勃起するのです。
周りには満身創痍の男性スタッフと、自転車を引っ張っている平野監督しかいないのに、歩きながら期待で勃起したのです。
「(本当に勃起しているか)触ってもらえばわかります」と迫られた平野監督も、少しだけ怖じ気づいた様子。

そんな辛くも平和な道中の一方、上原亜衣ちゃんはロケ地の車内で監督やスタッフと揉めに揉めていました。
『100人×中出し』シリーズは、ゲームルールが複雑なため、段取りに関しての意見が食い違ってしまったのです。
いつもなら折り合いがつきそうなのに、互いに引き下がらない亜衣ちゃんと監督。
女優に味方するはずの女性スタッフも「うちらの好きな亜衣ちゃんじゃない」と、辛辣な言葉を投げかけます。
最後の最後の引退作。
笑顔の映像の裏では、寒さと疲労の中で、みんな戦っていたのです。

いままで、どの作品でも観たことがない亜衣ちゃんの姿が映っていました。

山中湖に近づくにつれてコンビニがなくなり、スタッフが「カップラーメン食べたい」「栄養剤飲みたい」とぼやく中、青年は「もしコンビニが見つかったら、歯磨きしたい」と言ったのが印象的でした。
過酷な状況の中で、亜衣ちゃんとキスする時のことを考えていたのかもしれません。
最終的に、疲労の向こう側で青年は何を見たのでしょう。

余談ですが、エンディングはゴールドマン監督の「ロックンロール・オナニーマシーン」! いい曲です。