相手のことを考えるエロを

一体何が不安なのかといえば、彼女の夫は日本人ではなく、明らかに顔も肌の色も違う国から来た人だったのだ。日本人ならば、顔が夫に似ていなかった場合でも「私によく似ている」と言い張りシラを切るケースもあるらしい。血液型が夫と違うから、ということで不安になることはあるものの、間男と夫の血液型が同じならばバレないかもしれないし、間男と夫が違う血液型でも子供の血液型は同じになることはあるし、偽装工作をする人もいるという。

しかし、人種が違うとなると、これはどう考えてもバレる。それこそ黒人の夫がいるのに白人の間男と不倫していたら完全にバレるし、日本人でも当然バレる。間違いなく離婚及び慰謝料沙汰になることだろう。彼女の不安な気持ちも理解できたので僕は翌日会社を休み、病院へ行った。待合室で待っている時間はトンデモなく長く感じられ、診察室から出てきた彼女は泣いていた。

手術費用は僕が出した。もしも夫が口座の内容を把握していた場合、不自然な支出があれば問い詰められてしまうからだ。これ以降、僕らのセックスする回数は減り、避妊については前よりもさらに慎重になった。

そんなこんながあって数年後、彼女は無事、子供を産んだと明るい声で電話をかけてきた時、ようやくホッとしたし「おめでとう!」と心から祝福した。僕自身エロいことは好きだが、相手のことを考えるエロをしなくてはいけないな、という戒めになった若き日の出来事であった。

Text/中川淳一郎