彼女が亡くなってまだ5ヶ月。罪悪感が湧いたワンナイト未遂/中川淳一郎

僕が一生で付き合った女性は4人しかいない。だから毎度間男エピソードだらけになってしまうのである。そんな中、付き合った可能性はあるな、と思った女性が亜子さんである。背が高くて顔が小さく、いつもニコニコしている人物だった。元々大学で同じ講座を取っていたのだが、4年生だらけの講義でただ2人の3年生だったため、いつしか毎回隣同士に座るようになり、授業開始前は当時話題だった事件について話すのが常だった。

卒業から10年後の7月、当時付き合っている女性が亡くなった。その後は鬱っぽくなり、仕事をする気も起きなかったが、11月、卒業10周年の同窓会が行われた。小さな大学だったため、対象は同級生全員。その中に亜子さんはいた。すっかり優秀そうな中堅サラリーマンになっていたが、見た目はあまり変わっていなかった。「久しぶりー」と当時の授業のことなどを話し、今度飲むことを約束した。

飲みに行ったのは12月20日ぐらいだったと思う。12月8日に僕は亡くなった女性と住んでいた一軒家を引き払った。何しろそこにいると彼女との思い出が蘇り過ぎて悲しみが消えないのである。家から駅までの道ですら思い出があり過ぎて精神的に耐えられなくなり、友人の助言もあり引っ越すことにしたのだ。

亜子さんとは相性が良かった

引っ越しも終わり落ち着いた数日後、亜子さんにメールを送って、約束を取り付けた。卒業してからの10年間を互いに報告するとともに、近況も話すことになったが、当然恋人が死んだことも説明せざるを得なかった。

「ニノミヤ君、大変だったね。そっかー、なんて言っていいのか分からないけど、私でよければこれからも話聞くからさ」

この日、彼女と僕は合わせて生ビールを大瓶で10本は飲んだ。二人とも酒には強かった。大学時代、一緒に飲むことはなかったのだが、この一回の飲み会で我々は案外相性が良いことは分かった。会話がまったく途切れることはなかった。同窓会に行って良かったと心から思った。

次の約束は1月3日になった。一緒に僕の家の近くの神社で初詣をし、そのまま酒と食べ物を買い込んで僕の新居で酒を飲み、プレイステーション2をすることになった。この日もしこたま酒を飲み、夕方までゲームをして彼女は家に帰って行った。

その次は成人の日に一緒に高尾山に登る約束をし、2人して健脚のため、ケーブルカーは使わず、頂上までは歩いた。そして山頂近くのソバ屋でビールをまたたくさん飲んだ。そして、翌週も飲みに行く約束をした。

この段階で僕は亜子さんのことがかなり気になっていたのだが、彼女が亡くなってまだ5ヶ月。さすがにまだ彼女への思いがあったし、亜子さんに乗り換えてしまったら周囲から人でなし扱いされることだろう。亜子さんが僕のことをどう思っていたのかはよく分からない。だが、ここまで頻繁に会ってくれるということは悪くは思っていないはずだ。