90年代以前の立川は怪しい街だった。酔った痴女に出会った話/中川淳一郎

いわゆる「痴女」に一度だけ遭遇したことがある。大学生だった僕はJR立川駅南口の繁華街で友人の家に夜9時半ごろ向かっていた。当時所属していたサークルではフリーペーパーを作っており、その原稿を一緒に執筆するために行ったのだ。

今はすっかり立川駅南口は洒落た雰囲気になっているが、当時は傾きそうなバラック小屋のようなものがあり、水商売系の店やギラギラとしたネオン、ゲームセンターにバッティングセンターがあるような怪しい繁華街だった。僕は立川駅の北口側に住んでいたが、小中学生の頃、教師からは「南口に行ってはいけない」と注意されていた。何やら淫靡な世界を見せたくなかったのかもしれない。

友人の家に向かう途中で…

かくして大学生になったのだが、このときはそれほど南口を恐れないようにはなっていたものの、酔っ払いがフラフラと大量に歩くこのエリアを通るときは自然と速足になるものだった。スナック街へ突入し、友人宅はあと2分といったところで、「ちょっとぉ、おにぃさーん」と声を掛けられた。

そこにいたのはソバージュヘアで化粧の濃い女性で、ピンクのスーツというかドレスというか、典型的な当時の水商売風な恰好をしていた。ぐでんぐでんに酔っぱらっており、フラフラしている。年齢は35歳といったところか。

「アンタぁ、どこ行くの?」
「友人の家に行きます」
「あのさぁ、それは別にいいんだけど、アタシとホテル行かない?
「えっ?」
「ホテルよ、ホテル。立川はラブホテル結構あるから空いてるわよ」
「友人の家でちょっと作業がありまして……」
「そんなの待たせておけばいいわョ。ねぇ、アタシとホテル行こうョ」

そう言うと僕の手を引いて雑居ビルと雑居ビルの間の隙間に入ってきていきなり濃厚なディープキスをし、アソコを触ってきた。その後色々エロ経験をする僕・ニノミヤだが、さすがにこのときはまだウブだった。