AMの人気連載「命に過ぎたる愛なし」で読者からのお悩みに寄り添い、時には力強い言葉をかけてくれるものすごい愛さん。日常のささやかなエピソードから夫婦生活を綴った新刊『今日もふたり、スキップで』が“いい夫婦”の日である11月22日に発売されました。
今回は同じく、家族とのエピソードを綴った『パパが貴族』を10月20日に発売した髭男爵・ 山田ルイ53世さんをお呼びして、オンラインで対談を行いました。
ツッコミ目線で家族を見つめる
――お二人とも著書の中でご家族とのエピソードを綴られていますが、最初に家族エッセイを書こうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
山田ルイ53世さん (以下、山田):今回の『パパが貴族』はTOFUFU(後にAMと統合)で連載していた「旦那様は貴族」が大元になっているんですが、僕の場合は身も蓋もないことをいうと、オファーありきですね(笑)。
ものすごい愛さん (以下、愛):私も実はたまたまなんですよね。Twitterに書いていた夫とのエピソードを見た出版社の方から「結婚生活をテーマにしたエッセイ本を出しませんか?」とお声がけいただいて。
山田:純粋に伺いたいだけなんで、気を悪くしないで欲しいんですが……あの旦那さんは実在されているんですか?
愛:実在してますよ(笑)。今は隣の部屋でゲームしてます。
山田:(爆笑)。いや、それほど素晴らしいというか、人間離れした方だなと思って。
愛:よく夫の存在を疑われます(笑)。ダイレクトメッセージで「あなたの生活が妄想だと思ったら悲しくなったので謝って下さい」って言われたこともあるくらい。
――ユーモアたっぷりなエピソードでたのしく拝読しました。
山田:まあ、面白かった出来事を選んで書いてるんでそう見えるんじゃないですかね。次女が生まれる前、家族三人でお風呂に入ってて。「浴槽に入っているのは何人?」「ふたりー!」、「体を洗っているのは?」「ひとりー!」みたいな数のクイズを長女相手に出していた。最後に、「じゃあ全部で何人?」と尋ねたら、「さんにん―!」ではなく「かぞくーー!」……不意を突かれ思わず目頭が、なんてことはそうそう起こりません(笑)。暮らしの大半はしょうもないことばっかりですよ。
それに、我が子ながらなんて素敵な返しをするんだと確かに感心はしましたけど、毎打席‶美談のホームラン〟打たれても、ゲンナリしてしまう(笑)。
愛:普通に暮らしていたら、そんなに大きい事件って起きないですよね。
山田:起きない。起きたらしんどい。
――ただ、お二人とも「ネタにしよう」と思える家族の面白さに気づく観察眼が鋭いですよね。
山田:シルクハット被ってワイングラス持ってるから分かりづらいと思うんですけど、一応僕ツッコミ担当なんですよ(笑)。だから、家族に対してもツッコミ目線みたいなものはどうしても持ってしまう。長女が生まれてすぐの頃、授乳を終えて、奥さんが娘の背中をトントンしてた。そしたら奥さんの方が「げふっ!」と盛大にゲップ。そのときも即座に、「いや、お前がするんかい!」とツッコミが出ましたね。それくらいのキャリアはある(笑)。
そういう意味では、家族って良いボケをしてくれるときが本当にあって、「ありがとうございます」と感謝しつつ暮らしていますね。
愛:私はAMでは読者さんからの相談に回答していますが、いざ自分の話となると何もなくていつも悩みます。今回の本は、担当編集さんが「この一週間、何がありましたか?」ってまず私の話を聞いてくれるので、最近あった出来事をひたすら話すんです。すると「どうしてそう思ったんですか?」と深堀りしてくれて、それに答えている内に自分では大したことないと思ってたことが他の人からすると面白いんだなって気づく時があって、それをそのまま書くことが多いです。イライラしたり落ち込んでいたりすると、夫にもよく「その気持ちを文章にしろ!」って言われます(笑)。
山田:ここでも旦那さんのご利益が(笑)。結局、つまらない日常というベース、その‶フリ〟があるからこそ、たまに起きる‶ボケ〟が光るんだと思いますね。
「嘘がないこと」を前提に「面白く書くこと」
――たとえば飲み会で家族の話を振られた時に、必要以上に持ち上げたらマウントに捉えられたり、一方で変に下げ過ぎると誰もいい気持ちがしない。上手い塩梅で家族を語る方法はありますか?
山田:飲み会の場に、「いや~、うちの嫁がさ~……」的な、自分の奥さんを腐すトークでウケようとした上司の方がいて、それに愛さんがブチ切れたというあのエピソードですね。あの話の中で、愛さんがおっしゃってることは間違ってないと思うんですけど、現場はえらい空気になったでしょ(笑)?
愛:そうですね(笑)。もちろん、メディアに出られている方だったら分らなくもないというか。時には恐妻家キャラになり切らなきゃいけないこともあると思うんです。でも上司の場合はそういうのを求められていないんだから、奥さんを使って笑いを取ろうとしなくてもいいじゃないって思って。しかもなにも面白くないし。
山田:僕の場合、芸能界の友人は?と尋ねられたら「ひぐち君」と答えるしかないほど人付き合いがなくて。こんな仕事してるのに社交性ゼロで、ここ数年は飲みの席にほとんど顔を出してませんが(笑)。ただ芸人がそういう場で奥さんや家族の悪口を言って笑いを取るのは見たことがない。「そこまでエピソードトークが枯渇してるの?」と思われそうだし、なんか気持ち悪い(笑)。愛さんは飲み会で旦那さんの素敵エピソードを話しますか?
愛:30代になると、学生の頃と違ってそれぞれの環境や選択してきた道も違うので、家庭のエピソードってセンシティブな話題なんですよね。どちらの生活のほうが幸せなのかって優劣をつけものではないと思うんですけど、人によってはその話題に触れただけでマウントを取っていると思われることもあるので、自分から進んで夫の話はしないですね。
山田:なるほど。仕事の話も変な感じになることありますよね。
これは‶触れられる側〟、つまり僕の目線ですが、例えば仕事を終えて「お疲れ様です!」とスタッフさんに挨拶したとき「今日はこの後どこですか?」ってもう反射的に聞いてくる人、結構いらっしゃるんですよ。
その現場だけの日も当然あるので、「いや、もう家ですね!」と返す。すると「ああ……」ってなんか口籠って。悪いこと聞いたな、みたいな。いや、そっちが聞いてきてんから、気まずい感じにしないでよという(笑)。
要は、自分に関係のないことを、他人との会話の俎上になんとなく載せるのは止めときましょうということ。
載せる以上はなんとかして下さい(笑)。その腕がないならやめときましょう!
――でもお二人がする家族の話には嫌味がないというか、本当にご家族のことを愛していらっしゃるんだなということが伝わってきます。
愛:山田さんの本を読んでいると、直接的に家族を褒める表現はほとんどないじゃないですか。それでも家族に対する愛情だったり、「もーちゃん(長女)のことが可愛くて仕方がないんだな」ってことが伝わってくる。それがすごいなと思いました。
山田:基本的に、娘には「何者にもならなくていいよ」って思ってますね。彼女ももう小学2年生なので、アイドルになりたいとか、パティシエになりたいとか夢を語り出すこともあって。
パティシエに関しては、何年か前に、誰もかれもがパティシエに憧れて、なりたいなりたいと言ってた時期があったような気がしたので、「もう人手が足りてるから、ちょっと厳しいよ」とアドバイスしておきましたけど(笑)。とにかく、特別な何かになっていただかなくても全然いいですね。ご自由にという感じ。
愛:お子さんに本当の職業を内緒にしてるとおっしゃっていましたが、書籍のことも娘さんには伝えてないんですよね。いつか大きくなって、お父さんが髭男爵と気づいた時に「パパ、私のこと書いてるよね」って言われたらどうしますか?
山田:いつか正体がバレて、勝手にこんなこと書いてって怒られるかもしれないですけど、そのときは「一冊の本にまとめるくらい、つぶさに君を見守っていたのだ」と答えようと思ってます。煙に巻く自信はありますね(笑)。
愛:いやー素敵! やっぱり、パパの方が一枚も二枚も上手ですね(笑)。
山田:でも最近は僕の職業について「ママには内緒にしとくから大丈夫だよ」とか言い出したので、薄々気づいてるのかもしれない。どうも今娘の中では、「髭男爵」とか「ルネッサンス」は、「ママも知らない、パパとわたしだけの秘密」ということになっているみたいで(笑)。まあそれでも僕は、「違う人だよ?確かに似てるけどね?」と否定するだけですけど。
――許可を取る・取らないの問題もあると思いますが、お二人が家族のエピソードを書く上で心がけていることはありますか?
山田:事前に許可を取ったりはしませんけど、奥さんは僕の書いたものをこっそり読んでるみたいで、たまに「面白かった」と感想をくれることもあります。いずれにしても、「嘘がないこと」を前提に「面白く書く」ということだけは守ってますね。素材に無理矢理手を加えるようなことはしない。
愛:嘘を書いてつまらないって一番嫌ですもんね(笑)。
山田:そうそう。最終的に家族から文句を言われても、「でも全部ホンマにあったことでしょ?」と言い訳ができるという利点もある(笑)。
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