不機嫌になった彼女への、夫の対応

突然不機嫌になって帰ると言い出した彼女に、夫は明らかに困惑していた。
理由はただのバグなので「殴って直す」という対処が一番正しい。しかし、まだ付き合いたてで、私が昭和の家電と同じ構造と気づいていなかったため、言われた通り私を自宅の前まで車で連れて行った。

しかし、降りようとしたとき、夫もさすがにこのまま帰すのはどうか、と思ったのか「ちょっと待ってくれ」と、私を降ろさず、車を走らせた。

連れて来られた場所は「海」である。

まさか私の人生で何も言わずに海に連れて来られる日が来るかと思わなかった
その日の海は完全に無人で、私たちはしばらく浜辺に腰かけ、言葉も交わさずに海を見ていた。

気づいたら私は泣いていた。

そして困っていた。私も怒っている理由を言わないが、夫も「全く聞いてこない」のだ。引っ込みがつかない。目の前には広大な海。これはもう泣くしかない。

夫は泣いている私に何も声をかけなかったが、しばらくして「落ち着いた!」と判断したのか、再び自宅まで送り、その日は別れた。

そして後日、何事もなかったかのように会ったし、その日のことは今に至るまで一度も話題にしたことはない。

これから先「とりあえず海に連れて行く」という取扱いをされることは二度とないだろう。
しかしA4二つ折りのアルバムにこのことを記したいかというと、正直なかったことにしたい。今思い返しても私の態度は「ない」からだ。

自分の機嫌は自分でとれるのが大人である。
機嫌を他人に取ってもらおうとするばかりか、取ってもらえないことに腹を立てるなんて、とても成人式を迎えた人間のやることではない。入園式からやり直すべきだ。
せめて不機嫌になるときは、何が原因で不具合を起こしているかぐらいは自分で説明できるようでなければいけないだろう。そうすれば相手だって「大人しくなるまで熱湯につける」という、適切な対処が出来る。

今では夫と外出することはほとんどなくなってしまった。
そもそも私が不機嫌になったのは地雷である「外出」をしたからかもしれない。
どんなに好きな相手とでも、週一でバディを組んで何かのフンを転がすなどの「気の進まないこと」をやっていたら不機嫌にもなるだろう。

だが万が一これから一緒に外出して、そのとき「つまらない」と感じても夫に「おもしろくしてよ」と願うのではなく、「弘兼先生のトーク聞いていこうよ」と、自らおもしろくするように動こうと思う。

次回は<好きな相手とだから楽しい「おもしろかったデート」>です。
カレー沢薫さんが前回書いたのは「つまらなすぎて泣いたデート」の話でしたが、今回のテーマは「面白かったデート」。しかし、外出が大嫌いなカレー沢さんの頭には「虚無」が浮かんでいるようで……。

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