カレー沢の肉片Cの提案

それでも「本当にこのままでいいのかよ」と、肉片Aの胸倉を掴むB。両方泣いている。

その時、肉片A、Bの両肩に「ジャリッ」という感触が走った。

甘いパン好きのカレー沢の肉片Cである。

Cは、いつもジャリジャリした砂糖がついている手を、AとBの肩に置きながら言った。
「今、我々がすべきことはそんなことじゃないだろう」

提案という生易しいものではない、かといって強要などという傲慢なものでもない。
自らの非を認めた上での、心からの「お願い」。

―そう、懇願だ。―

その瞬間、肉片たちが集まりキングカレー沢になったかというと、逆にカレー沢G~Lが死んだので劣化したのだが、1個に戻ったカレー沢は、もう一度担当にメールを書いた。

まず、今の今まで、純粋に怖くてコメントの確認が出来なかったこと正直に告げ、謝罪した。
そして、担当を始め、販売やデザイナー諸氏に、多大な迷惑をかけることを承知した上で、それでも、どうしても、こっちのコメントが良い。そうでないと、当方は一生悔いることになってしまう。
本当に申し訳ない、だが、お願いだから、何卒、何卒、よろしく申し上げ奉り候。

というようなことを出来るだけ簡潔に書いて送った。長くしようと思えばいくらでも長く出来たが、本当にヤバイ奴だと思われると、返信すらされない可能性がある。

「「………」」

万策講じた。後は待つだけだ。
しかし、「もう間に合いません」と返って来た時のこともちゃんと考えていた。

その時は素直に「これにしてくれなきゃ、死んでやる」と送る予定だった。

私は、間違っても爽やかな人間ではない、メンのヘルの調子もいつも悪い。
しかし、他人はもちろん、恋人や、家族にだって、そんな脅し文句を言ったことは一度もない。

と言った。

「むしろ、本当に死ぬ気もないのにそんな事を言う人間をバカにしていたかもしれない。
だが、人には、こんな悲しく惨めな言葉でしか、何かを繋ぎとめられない時があるのだ。

何があっても他人をバカにしてはいけない。

心からそう思った。
何故、人が人をバカに出来るかと言うと「自分はそんなバカなこと絶対しない」という自信があるからだ、だがそれこそが「絶対に」ない。

いとも容易く「まさか自分が」という事態に陥るし、考えられないようなバカなことをしたり、言ってしまうことがあるのだ。
私は今まさにバカなことをしているしバカなことを言おうとしている。

だから、他人をバカにすべきではない。他人のためではない、いつかそれ以上のバカになってしまうかもしれない、自分を許すために、すべきではない。

―人生で大事なことは、みんなガチャから教わったー

全くその通りだ、と担当の返信を待ちながら思った。

その後、私が命をかけていることが伝わったのか、あっさりかどうかはわからないが、POPのコメントは私の希望通りとなった。

本当に関係者一同には迷惑をかけたが、おかげで悔いを残さず済んだ。ぜひ書店様は、もう本は置かなくていいからPOPを飾って欲しい。

ただ、POPに対しての悔いどころか、今回の件で人生に一片の悔いもなくなってしまったので、正直、これから何をすべきなのかすらわからない。

ただ、次回「無職になったら夫としたいこと」という史上空前のクソテーマに挑まなければならないのは確かだ。

人生に一片も悔いがなくなったら、その場で絶命すべきなのだ。

人生で大事なことは、みんなガチャから教わった、そしてラオウ様は正しい。

Text /カレー沢薫

※2018年4月10日に「TOFUFU」で掲載しました