知人夫婦の夢
二年程前。
知人夫婦が、我が家を訪ねてきた。
息子も伴い、家族総出である。
地方から、遠路遥々の上京…と言っても、別に旧交を温める為ではない。
東京に来るのは毎週の恒例行事であり、ついでに立ち寄っただけとのこと。
「息子を子役にする!」
それが、夫婦の希望…夢。
都内の芸能事務所でレッスンを受ける為、毎週、車で通っている。
月謝などの出費も馬鹿にならぬだろう。
その熱心さには頭が下がる。
しかし、僕には、彼らの息子が、一端の子役となり、成功するとは到底思えなかった。
人見知りなのか。
終始、母親の背中に隠れ、もじもじと。
容姿も凡庸…いや、率直に言って、少々不細工である。
“味”のあるタイプでもない。
人様の子どもをつかまえて、失礼千万だが、要するに普通なのだ。
“一発屋”風情が口幅ったいが、二十年近い芸歴、その半分以上を、芸能界で金を稼ぎ、飯を食い、家族を養ってきた人間。
加えて、本物の子役達との共演経験も何度かある。
確かに、何かの才能に恵まれた、“天才”と呼ばれる類の子どもは存在する。
しかし、大抵の場合、それは、“あなたの子ども”ではない。
残酷だが、厳然たる事実。
余程、忠告してやろうかと思ったが、
「凄いやん!頑張ったら絶対なれるよ!!」
おくびにも出さず、そう言い放ち、自室に引っ込んだ。
よそ様の御家庭のこと。
口出しなど、余計なお世話なのだ。
そもそも、興味もない。
何より、僕にした所で、彼らのことを言えた柄ではないのだ。
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