天才はいるが、それは「あなたの子ども」ではない/旦那さまは貴族(山田ルイ53世)

知人夫婦の夢

芸人ルネサンスの2人が干潟をバックにオレンジジュースで乾杯している画像

 二年程前。

知人夫婦が、我が家を訪ねてきた。

息子も伴い、家族総出である。

地方から、遠路遥々の上京…と言っても、別に旧交を温める為ではない。

東京に来るのは毎週の恒例行事であり、ついでに立ち寄っただけとのこと。

「息子を子役にする!」

それが、夫婦の希望…夢。

都内の芸能事務所でレッスンを受ける為、毎週、車で通っている。

月謝などの出費も馬鹿にならぬだろう。

その熱心さには頭が下がる。

しかし、僕には、彼らの息子が、一端の子役となり、成功するとは到底思えなかった。

人見知りなのか。

終始、母親の背中に隠れ、もじもじと。

容姿も凡庸…いや、率直に言って、少々不細工である。

“味”のあるタイプでもない。

人様の子どもをつかまえて、失礼千万だが、要するに普通なのだ。

“一発屋”風情が口幅ったいが、二十年近い芸歴、その半分以上を、芸能界で金を稼ぎ、飯を食い、家族を養ってきた人間。

加えて、本物の子役達との共演経験も何度かある。

確かに、何かの才能に恵まれた、“天才”と呼ばれる類の子どもは存在する。

しかし、大抵の場合、それは、“あなたの子ども”ではない。

残酷だが、厳然たる事実。

余程、忠告してやろうかと思ったが、

「凄いやん!頑張ったら絶対なれるよ!!」

おくびにも出さず、そう言い放ち、自室に引っ込んだ。

よそ様の御家庭のこと。

口出しなど、余計なお世話なのだ。

そもそも、興味もない。

何より、僕にした所で、彼らのことを言えた柄ではないのだ。