娘のプール教室を混乱におとしいれた「チャイルドプレイ」事件/山田ルイ53世

先日、娘の水泳教室にお供した。
彼女は赤ん坊の頃からプールに通っている。
最初は"ママと一緒にバシャバシャして水に慣れる"くらいから始まったものが、5才となった今では格好よくゴーグルを装着し25mを楽々と。
少し前世間を騒がせた、"向島~尾道"ルートもいずれ泳いで渡るに違いない。

水着に着替えた娘を一階のプールへ送り出し、僕は二階へと赴いた。
そこは、ガラス張りのバルコニー。
長椅子が数脚置いてあり、座りながらプールを一望出来る。
丁度、イージス艦の指令室と甲板のような位置関係で、子供を見守るには、絶好のスポットである。

1クラス10人ほどの生徒達を率いるのは、まだ若い女性のコーチ。
彼女が"パンッ!!"と水面を叩くのを合図に、子供達はプールの壁を蹴り、コース中程に沈められた台を一人ずつ目指す。
辿り着くと、プールの縁(へり)の水深の浅い箇所を伝って、スタート地点まで歩いて戻り、列の最後尾に並ぶ。
時折、コーチの目を盗んで、父兄達のいる席の方を見上げ、手を振ってはしゃいだりする子がいるくらいで、あとは皆一様に、次の自分の番が来るまで大人しく待っていた……只一人を除いては。

僕の娘と同じクラスのその女の子……年はおそらく4才か5才だろう。
「あらー、可愛いねー!お人形さんみたいだねー!?」
これまで彼女を前にした大人達の多くが口にしたであろう台詞が、僕の頭を過った。
実際、バルコニーからでもはっきりと見て取れる、少し茶色っぽい巻き毛とパッチリと大きな目が、
"フランス人形"とか"リカちゃん人形"のように愛くるしかったが、僕が思い浮かべていた"人形"は別のもの。
それは、映画『チャイルドプレイ』の"チャッキー"……往年のB級ホラーの名作、その劇中で暴れ回るあの人形のことである。

理由は外見ではなく、その振る舞いにあった。