遺書

ピオフィオーレの晩鐘 - PSVita ピオフィオーレの晩鐘 - PSVita

 しばらくして、Kさんが警察署に到着した。

 Kさんが金髪碧眼のプリンスだったら完全に次元を超えているが、真面目で優しそうな、ごく普通の中年男性だった。

 Kさんも揃ったところで、韓流デカが父の所持品と遺書を机に置いた。遺書は私宛、弟宛、Kさん宛の3通だった。
どうかエモいこと書いてませんように…と祈るような気持ちで、韓流デカが封筒を開けるのを見ていた。

「アル子へ。
 すぐに相続放棄の手続きをしてください。
 骨は海に撒いてください」

 全然エモくなかった。

 感謝や謝罪の言葉はなく、指令のみというのが父らしいと思ったが、さすがに涙が出た。
遺書には身覚えのある字が並んでいた。それは子どもの頃に母から見せられた、結婚前に父が母に送ったラブレターと同じ字だった。

 また父が死んだ時に身につけていた所持品、使い古した財布や携帯やキーホルダーを見て、胸が痛んだ。

 喪失感はゼロだった。ただ「可哀想だな」と思った。
父にも少年時代や青年時代があって、まさかこんな死に方をするなんて思ってなかっただろう。
古いアルバムには父が赤ん坊の私と弟を抱いている写真があるが、その時はこんな別れ方になるなんて想像もしなかっただろう。

 1人の人間として父のことが可哀想で、悲しかった。同時に「死ぬほどの苦しみから解放されてよかったのかも」とも思った。私は幼い頃から、自殺は一種の救いでもあると思っている。

「ご遺体の確認をお願いできますか?」

 韓流デカにそう言われて「私は無理なんで、夫に確認してもらいたいんですが」と返すと、ジャニーズデカが「あの、こういう亡くなり方ですけど、ご遺体は損傷が少なくてキレイですよ」と教えてくれた。

 目がくりっとして可愛い。でも私は武骨系が好みだから、攻略するなら韓流やな。

 ヒロイン目線になりながら「やっぱり死体が怖いんで」と夫に任せた。夫とKさんが別室に行っている間、私は心の中で自分に言い聞かせていた。

「敵は己の罪悪感」

 私が父と絶縁しなければ、交流を復活させていれば、父は自殺せずにすんだんじゃないか。私は冷たすぎたんじゃないか。
そんな罪悪感が浮かぶのは、私に良心がある、サイコ田パス子じゃない証拠である。パス子じゃないのでつい自分を責めそうになるが、それをやると毒親育ちは生きていけない。

 私はここまで必死に生き延びた。父は69歳の大人であって、自分の人生の責任は自分にある。子どもは親の人生に責任をもつ必要なんてない。
そう自分に言い聞かせたが、父に優しくされた記憶もあるので、やっぱり胸が痛んだ。

 しばらくして、遺体の確認をすませた2人が戻ってきた。Kさんは肩を震わせて泣いていた。デカたちはKさんに話を聞きたいといって、その場を離れた。

 2人きりになった時、夫の口から予想外の言葉が飛び出した。