「かわいい」と言われたかったんじゃなかった
“かわいい”に飢えている私は、夫に「このコートかわいい?」「このワンピースかわいい?」としょっちゅう聞く。夫は「ブチハイエナみたいでかわいい」「ゴマダラカミキリムシみたいでかわいい」と答えてくれて、そのたびに私はご機嫌になる。
よしながふみの名作『愛すべき娘たち』に、主人公が子ども時代の記憶を話すシーンがある。
子どもの頃、主人公はピンクの振袖を着るが、あまりに似合わなくて落ち込む。そんな娘に母親は「ほら笑ってごらん、可愛いから」と言い、「可愛くないもん!」と返すと「とっても可愛いわよ、世界一可愛いお母さんのお姫様」とにっこり微笑む。
「不思議ね、とってもうれしかった。振袖はやっぱりあたしに全然似合ってないのは分かってたのに」と振り返る主人公。
私はこのシーンを読むと必ず泣いてしまう。
私は母に「かわいい」と言われたかったんじゃなかった。笑顔を見せてほしかったし、愛されていると感じたかった。
我が家の猫プリンス・カメハメは、寝顔がものすごくブサイクだ。
白目を剥いてキバを出して眠る姿はチュパカブラにそっくりで、夜中に見るとギョッとする。それでも、ブサイクであればあるほどかわいいと思う。
この“かわいい”は“愛しい”という感情なのだろう。
ちなみに夫いわく「かわいい?と聞かれるのはいいが、どっちがかわいい?と聞かれるのは困る」。
以前、スマホのファッションサイトを見ながら「ワンピース買おうかな。ベージュとボルドー、どっちがかわいいと思う?」と夫に聞くと、
夫「ベージュというのは…ねずみ色か?」
アル「肌色や!ボルドーもかわいいと思うんだけど」
夫「ボルドーは地名じゃないのか?」
アル「それは間違ってないけど、ボルドーはぶどう色」
夫「ぶどうにもマスカットや巨峰など種類があるぞ」
という会話になり、結局、色の説明をして終わった。
ベージュとグレーの区別がつかない夫もどうかしているが、四十路を越えて「かわいい?かわいい?」と聞きまくる女もどうかしている。というか、完全にイタいと自覚している。
でもパートナーの前でイタくならずして、どこでなるというのか。
私はかわいい子に劣等感を抱いてきたし、男の前でかわいこぶる女が嫌いだった。
そんな私の中にも「かわいがられて愛されたい」というお姫様願望があって、それを解放できる唯一の相手が夫だった。
そんなわけで、私は今日も長い髪をアップにして「かわいい?」と聞く。夫は「ベンキマンみたいでかわいい」と答える。
ベンキマンの頭に載っているのはウンコだが、それでも私はご機嫌になる。
きっと私が弁髪にしても、夫は「ラーメンマンみたいでかわいい」と言ってくれるのだろう。一度、試してみてもいいかもしれない。
Text/アルテイシア
※2016年8月9日に「TOFUFU」で掲載しました
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