男選びと靴選び
「ほんと好みって恐ろしいですよね!」と担当アサシン嬢も同意する。
マッドドッグと呼ばれる彼女も、かつてはだめんず沼にハマっていたという。
「大学時代、アル中の彼氏と付き合っていて、ホテル代もデート代も私が払ってました。『長所がマイナスに働く』でいうと、私は酔っ払いに寛大なんですよ。あと男に奢られるのがべつに好きじゃないので、ヒモ気質の彼を受け入れてしまったんですよね」
そんなアル中でヒモな彼になぜハマッたかというと、
「完全に好みですね。顔も山P似で好みだったし、中身もサブカル系で好みでした。音楽や文学に詳しくて、本屋で私がサリンジャーを読んだことないと言うと『ナイン・ストーリーズ』の文庫本を買ってくれて、ときめきました。それよりホテル代払えって感じですよね」
ちなみに『ナイン・ストーリーズ』の文庫本は562円で購入できる。
私は左翼系の大地康雄が好みで、アサシン嬢はサブカル系の山Pが好みと、方向性はだいぶ違うが「ときめき補正によってダメな部分が見えなくなった」という点は同じだ。
「あと私は楽譜すら読めないので、楽器ができるバンドマンに弱いんですよ。アル中の彼もサックスをやっていて、そこもどちゃシコで好みでした」
そんなどちゃシコで好みの彼と別れたキッカケは、
「泥酔した彼が国道246で寝ようとするのを歩道に引きずってる時に『底つき』が来ました。日常生活でサックスは吹かないし、この人と生活するのは無理!別れなきゃダメだ!と気づいたんです」
腹の底から「ダメだこりゃ!!!」とシャウトした瞬間、人は堪忍袋の緒が切れる。緒が切れた後はめちゃめちゃ痛いし、「なんであんな男と付き合ったのか」と自分を責める。
でもやっぱり、痛い目に遭ったからこそ学ぶことも多いのだ。
アサシン嬢は「私はいまだにバンドマンに萌えるし、好みは変わらないです。でも相手のダメな部分を見られるようになったし、『この人と生活するのは無理』と判断したら、たとえ好みでも選ばなくなりましたね」と振り返る。
男選びは靴選びに似ている。
好みのデザインに一目惚れして買っても、足に合わないと痛くて我慢できなくなる。靴ずれで傷ついた足にバンソーコを貼りながら「観賞するぶんにはいいが、これで歩くのは無理」と気づく。そして、履き心地のいい靴を選ぶようになる。
ちなみにJJ(熟女)になると、足に合わない靴は1秒も履いていられない。無理して履いて転んだりしたら、ガチで命にかかわる。
ゆえに若い頃よりも年齢を重ねた方が、マッチングする相手を選べるようになるのだ。