献身的な良妻ぶる私
ゴリラと付き合い始めてから、私は別に好きでもない料理をやたらと頑張っていた時期があった。
ゴリラがろくなものを食べてないと聞いていたからということもあるが、アメフト選手と付き合うなら女が家事をやらなければいけないと思いこんでいたのが主な原因だ。
ゴリラもきっと私に甲斐甲斐しく尽くしてほしいはずだと勝手に思い込んでいたのである。
当時の夕食は、メイン級の肉料理を2種類と、それにプラスして副菜を3品出すという気合いの入りようであった。
現在はおかずを3品作れば良い方なので、計5品は、私にしてはかなり無理をしていたと言える。
しかし、無理をするのは苦痛でしかなかったかと聞かれれば、正直そうでもなかった。
若い私は献身的な妻ごっこをやることに、別段悪い気はしなかったのだ。
なぜなら、したり顔で「主人を支えるのが仕事なので…」とでも言ってみれば、まるで芸能人のように普通とは違う結婚をしたという自己満足に浸れると思ったからである。
実に浅はかな理由だが、私は若かったのだ。
そういえば、以前夫のことを『主人』と呼ぶ女性に対して「自分に酔っているみたいでムカつく」という発言をネットで見かけたことがある。
もし若い頃の私のような人のことを言っているのなら、確かに仕方ないと思う。
自己満足のために他人を巻き込まないで欲しいと思うのは当たり前だからだ。
ちなみにその後どうなったかというと、残念ながら私の『しおらしく台所に立って男を立てる良妻ごっこ』は長く続かなかった。
そもそも私はゴリラとそんな関係になることを望んでいなかった上、ゴリラも私に尽くすことを特に望んではいなかったのだ。
せめて私に妻界の頂点を目指すことに対して熱意があったら違ったかもしれない…。
自己顕示欲に目が眩み、ガラにもないことをしてしまったと今は反省している。