遊んでたのは私だけだった
「誰とも付き合ってない」
彼は言った。
「ちょw嘘や〜んwwどう見ても若い女こましとるやんけ〜ww人妻は他人の色恋沙汰が大好物やねんで〜wwww」
関西人がイラつくようなエセ関西弁でふざけると
「将来を期待させてしまったら可哀想だから、付き合わなくなった。お前にも、期待させてしまった」
と少し遠くを見て言ったのだ。
「エッ…もう何だよぉ!ゆーて他にもオンナいたでしょあのとき〜」
「いなかったぞ」
「エッ」
「お前だけだった」
衝撃だった。
私と真面目に付き合っていた元カレが、知らぬところにもうひとりいたのだ。
昔の彼女に「あなたの子よ」と言われ、初めて会う子供に「パパ…?」と呼ばれる男の気持ちが少しわかった気がした。
ところで、私はこの歳になりバツイチや結婚しない主義が周りに増えてきて、やっと理解できたことがある。
誠意にはたくさんの形があって、結婚をしなければ不誠実というわけではないということだ。
当時、彼は彼なりに私のことをきちんと考えてくれていたのかもしれない。
けれど若い私は、誠実さを表わす最高の形は結婚だと思っていた。
いつだかもう一生結婚はしたくないと言ったイケオジに対して「あ、この人私に遊びだよって言ってるんだな」と勘違いをしたのだ。
そういうことではなかったと今なら理解できるが、私は若すぎたのだ。
いや、たとえ理解しても私はゆくゆくは結婚がしたかったので、結局は彼の元を離れてはいただろうと思う。
しかし私が黙って去らなければ、その理由を彼は一人で考えなくても良かったのだ。
そう思うと私は本当に酷なことをしたと思った。
さよならくらい言えばよかったのだ。
「ごめん…」
私は絞り出すように言った。
しかしすぐに、
「エモい〜!エモいよ!私のことちゃんと考えてたのね〜!」
と浮かれ出したので、イケオジは「そうだこんなヤツだった」と言いたげに苦笑いをして、その話題は終わった。
「イケオジが死んだら線香くらいあげに行くからね」
というような身も蓋もない話を数時間して、改札前で私達はバイバイをした。
エモい気分と酒に酔いながら、電車に揺られていた私は、このエモさ何か知ってるぞ…!とハッとした。
私は3年間住んだ、中野新橋から引っ越す時を思い出していた。