もしも今夫婦youtuberになるとしたら何を発信する?/カレー沢薫

今回のテーマは「もしも今夫婦youtuberになるとしたら何を発信する?」である。

結婚は悲しいことを半分にするためにある、という。

私はただでさえ皆さまにお伝えしたいことが特にないメッセージ性に欠ける作家だが、夫とコンビでユーチューバーになることにより、倍率ドン、ただでさえない伝えたいことがさらに半分になるだろう。

おそらく、何で自分がここに連れてこられたかわかっていない夫に対し、ひたすら「おもしろいことを言って」という目くばせをし続ける私の映像が流れるだけになるだろう。
一つ伝えられることがあるとしたら「意志の疎通ができない相手と結婚するとこんなに恐ろしいことになる」ということぐらいだ。

私はあまり見たことがないが、ユーチューバーやティックトッカーをやっている夫婦やカップルは多いようだ。

元々有名人夫婦だったり、海外在住だったり、夫がアリクイに食われていたりと、若干特殊な状況を売りにしているカップルチャンネルもあるようだが、本当に特筆すべきことはない普通の夫婦のチャンネルもあり、それが普通に人気だったりするようだ。

確かに物見遊山なら、便所が自分の部屋より広いセレブの夫婦生活を見るのも楽しいだろうが、共感や知見を得たいなら一般の夫婦のチャンネルを見た方が捗るだろう。

よってドメスティックユーチューバーお馴染みのモーニングルーティンや家計の発表動画などが特に人気のようだ。

我が家のモーニングルーティンを紹介するとしたら、6時前に夫が起床し、食器の片づけ、自分の朝食の用意をし、自分の弁当箱であるタッパーに米を8割まで詰めたところで、私が起床、米まで詰め終わったタッパーに冷凍食品を3つ程度配置したのち寝室に戻ったところでカメラが止まる。

カメラと一緒に私の意識も遮断されるため、その後夫が何をやっているか不明だが、入念な身支度や体操、掃除でもしているのだろう。

たまに「よし!」と現場猫みたいなことを言って出社していく夫の声が2階のオフトゥンに戻った私の耳にも届いて怖い。

これから会社に行くというのに何が「よし」なのか、悪いことしかないだろう。しかし夫が毎朝「コロシテ…」と言いながら出社していくよりはいい、元気でなによりだ。

家計に関しては、視聴者の皆様よりも先に、私の課金額を夫に公開しなければいけないという関門があるので無理だ。

おそらくプロ夫婦チューバーともなれば「私のウマ娘課金額を知った時の夫の反応wwww」というタイトルでまたアクセスを稼ぐのだろうが、私はまだそこまで肚が決まっていない。

夫婦で動画投稿という同じ趣味を持てるのは良いことだとは思うが、どうしても「リスク」の方を考えてしまう。