全裸である。
何故なら、3ヶ月以上前から全裸で待っている。FGOの男性水着キャラが未だに登場していないのだ、出てくるのは女性水着ばかり、このままでは全裸待機が終わらないままに、夏、そして人生が終わってしまう。
なぜ、これだけを楽しみに生きてきた人間がいるとわかっていてこんな仕打ちをするのか。まさかそんな奴いないだろうと思っているのかもしれないが、我の虚無を舐めるな、吸い込むぞ。
しかし、逆に言うと、虚しいが平和でもある。
もし、男水着キャラが登場し、全裸待機が終了したとして、何を着るかというと、半永久的に着るつもりで買ったイオンのフリースとかではない、白装束だ。
他にも、遺書を書いたり、辞世の句を読んだり、華麗百蓮爆士大姉などの戒名を考えたりと、てんやわんやの大忙しなのである。
しかし、男水着キャラが出ないということは、ガチャを回す必要すらないということであり、ただ心が死んでいるだけ、という穏やかな状態で粛々と、夏イベをこなすことができるというものだ。
なのに、なんで回しちまったかな、ガチャを。
何故か回してしまったのである。女性水着キャラしか出てこないガチャを。しかも、それすら出てこなかった。ただの一体もだ。
回したと言っても、たかだか60連ぐらいであり、現金に換算すると1万円ぐらい、つまり四捨五入で無課金だが、いくらなんでも深追いしすぎだ。鼻くそだとしたら、脳に到達するぐらいほじっている。
確かに、女性水着キャラが出てくるガチャも魅力的だ。しかし、私にとっては「掘れば上質な粘土が出てくる可能性がある」という程度の話だったはずだ。
私が求めたものは(全裸で)男性水着キャラという金塊だ。
アニメ化が決まった「ゴールデンカムイ」だって、宝の地図を、複数人の体に刺青として彫るなどという、ちょっとどうかしちゃっているアイディアをみんな受け入れて彫らせたのは、その宝が金塊だからである。それが、ちょっと良い粘土だったら、そこで「ゴールデンカムイ 完」だ。
そもそもゴールデンですらない、粘土カムイである。
どう考えてもここまで回す必要はなかった。もしこの後万が一、男水着がきたら、必ずこの60連を後悔する。
だがこれがガチャの恐ろしいところだ。1回回すと、目当てがいるとかいないとか関係なく止まれなくなるのだ。最初ワケあって犯した殺人が、そのうち殺人自体が目的になってしまうのと同じだ。
もちろん担当を殺すことに関しては、最初からそれ自体が目的でワケなどどうでも良いのだが、ガチャはこれでは困る。
幸い、1万という無課金で止まれたが、回したのが朝だというのが悪かった。
これから向かう会社の日給は、余裕で1万を下回っている。朝10分で失った金を取り返せもしない。労働に向かう、低賃金ソシャカスの辛いところである。
だが、長いソシャカス生活、こんな朝も月に一度ぐらいあるさ、と、スマホのディスプレイを見直して私はあることに気づいた。
「夫の誕生日」だ。
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