小さな物語のひとつひとつが、この恋を豊かにする

最近、好きな人が突然、「転んでケガをした」と写真を送ってきた。目の上を切って、病院で縫ってもらったらしい。生々しい傷の写真を送ってきたのはどういうつもりか、心配してほしかったのか、私がよろこぶと思ったのかはわからないけれど、いずれにせようれしかった。残念ながらその跡は薄く残ってしまうようだが、私は内心「次に会ったときにさわったり舐めたりできるからいいなぁ」と思ってしまった。会えないあいだに、小さな伏線のようなものが少しでもできると、この関係は楽しくなる。

いつだったか、彼と空港で買い物中、何かのおまけでお店から小さなうさぎのキーホルダーをもらったことがあった。彼が「かわいいね」と言うので、「じゃあ、これ私だと思って持っててよ」と半ば無理やり渡し、パスポートケースにつけてもらった。そのことを思い出して久しぶりに「うさぎの私は元気かな」と聞いてみると、「耳が黒ずんできちゃったよ」と返してくれた。そういう小さなストーリーで私を思い出してくれたらいい。前の恋人には抱き枕に私の名前をつけてもらっていた。古典的だけれど「これ私だと思って」作戦は昔から好きだ。

名前のつかない恋愛は不安定で、不確実で、いつ会えるという保障もない。だから寂しいときもあるけれど、そのぶん、小さな物語のひとつひとつが、この恋を豊かにしていく。関係が終わらなければきっとまた会えるから、あまり焦ることなく、会うまでの伏線を仕込んでいけたらいいなと思う。

Text/雨あがりの少女

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