元カレとよりを戻す VS 打算の結婚
この作品のメインは「別れた男とよりを戻すか、もちっとマシな男と結婚するか」です。
モエ子の内縁の夫である勉は、浮気ではなく生活革命とかいう謎の動機から他の女と暮らすことを選んだわけなんですが、結局モエ子の家に戻ってきます。
元カレとよりを戻したい……そう願って悩んでいる女の子はたくさんいるでしょう。私も一度はそれを願ったものです。でも、結局だめなんです。よりは戻しちゃだめなんだ!と気付くときが来るんです。
そう、元カレっていう生き物はどーにもこーにも偉そうなんです。
他人の面も友達の面もできず、別れたくせに彼氏面するんです。
勉がトドメに「ぼくは、君と、もう一度、結婚してもいいんだ」と言うことでモエ子は怒り心頭に達します。
「結婚してもいいんだ/付き合ってもいいんだ」という言葉の何がいけないのかわからない人もいるかと思います。これが、「結婚してほしいんだ/付き合ってほしいんだ」だったら話は違っていたかも知れません。
過去の非をわびて涙を流しながら懇願でもしてくれたら……とモエ子はこころの中でつぶやくわけですが、これは多くの人にも共通する願いではないでしょうか。
確かによりは戻したい。まだ好きだ。でも別れた原因を思い出してほしい。どっちに非があったか? こっちにも非はあるかもしれないけれど、向こうにも非はあるのだ。せめて一言「ごめん」くらい言ってくれたらいいのに、どうして上から目線なのか……。
弱い女はなにかと喜びがちです。返事が来るだけで、夜じゃなくて昼に会ってくれるだけで、セックスしたがってくるだけで「自分は求められているんだ! 求めてくれているんだ!」とうっかり喜んでしまうのです。
そんな言い方ひどすぎるだろ、と思うかも知れませんが、昔の自分への悪口です。
モエ子も同じです。自分の淹れたコーヒーを褒められるとやはり嬉しがりますが、再婚の話を持ち出されたときに、ふとこんなことをつぶやきます。
「あたしが、コーヒーをいれることを、知らなかったら、あの人は、今度の申込みをしてくれたか知ら?」−369p
男の人が「女のATMになりたくない」「年収で見られたくない」と嘆くのとちょっと似てますね。受け入れたら、生涯妻を食わすために働かなくちゃいけませんから。
モエ子の場合は、それがコーヒーになるので、生涯夫のためにコーヒーを淹れつづけなくちゃいけなくなるわけです。そこに愛はあるのやら……ふと、そんな風に疑ってしまうのも仕方のないことに思います。
「選ばない」を選ぶ強さ
結果として、モエ子はパートナーを選ばずに「日本一のワキ役になる」と決心し、ヨーロッパへ演技の勉強をするために飛びます。
元夫である勉を選ばなかった理由は、自分よりコーヒーを愛している男と復縁することにプライドが許さなかったから。再婚を申し込んできた菅を選ばなかった理由もそれと同じであるのに加え、モエ子は自分に妥協を許すことをやめたのだと思われます。
元カレが言い寄ってきたらついつい身を任せてしまいがちなのがダメ女のあるあるですよね。元カレの誘惑に負けてしまった人もきっといるんじゃないですか。それを断ったモエ子の勇気と覚悟はなんだか励まされる気持ちになりました。
かっこいい。強い女ってかっこいい! そう思いませんか?
ちなみにですが、著者・獅子文六は慶応ボーイのエリートで、フランスにわたって国際結婚をしている珍しい人です。だからなのか、ユーモアが溢れていて日本の古い価値観に縛られていないという印象があります。
なんとあとがきにはサニーデイ・サービスの曽我部恵一さんが解説を書いています。
コーヒーとレコードと恋愛しかないような毎日を送っていた彼が書いた「コーヒーと恋愛」の歌詞も載っています。ぜひ声に出して読んでみてください。
Text/oyumi
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