驚くべきナオミ・ワッツのダイアナ“完コピ”具合
なんといってもナオミ・ワッツによるダイアナの再現力。これに尽きます。
ダイアナの特徴である上目遣いと柔らかな話し方を完全にマスター。囁くように話しかける姿が、だんだんダイアナ本人に見えてくるからアラ不思議。その上品さ、美しさには誰もが見とれてしまうことでしょう。
そこには『マルホランド・ドライブ』で見せたレズっぷり、『キング・コング』で巨大なゴリラと戯れた面影などはない。もはや完全にプリンセス。
一般人とかけ離れた高貴な立場でありながらも、誰もが抱く恋の熱情に翻弄されるダイアナ。このバランスを表現するのは至難の業なはず。
その繊細な演技の数々は、観終わった後に思わず「ナオミ・ワッツ」をGoogleで画像検索してしまうほど素敵なのです。
もちろんダイアナ本人だけでなく、撮影のディテールにもこだわりが深い。ケンジストン宮殿での撮影は、なんと王室から特別に許可が下りたといいます。しかも事実と同じ日時と場所で撮影することにこだわっていて、そのせいかスクリーンからは1990年代のイギリスの空気感が漂ってくる。
ただの再現VTRに留まらない。オリバー・ヒルシュビーゲル監督のリアリティを徹底的に追及する気合いが感じ取れるのです。
恋に笑い、恋に泣くのはみんな同じ
人々から愛され、豊かな暮らしを手に入れたダイアナでも、心は満たされない。簡単には手に入らないものがある。それはもちろん、恋です。
度重なるスキャンダルと立場の違い。ハスナットに別れを切り出されたときの、ダイアナが泣き崩れる姿に心苦しくなる。プリンセスがこんなにも恋に燃えて、相手からの電話を待っていたなんて。
当時はワイドショーや週刊誌のスキャンダルで、“恋多き女”という印象を抱いてしまったかもしれない。しかし、大勢のパパラッチに巻き込まれるダイアナは、めまぐるしい時代とともに生きていた。
ニュースで何重にも重なって見えなかった彼女の本当の姿が今、映画によってクローズアップされ、我々はようやく彼女の恋の真実を知ることになるのです。
ニュースは人物を簡単に切り取る。でも、映画は人物を丁寧に映し出してくれる。
本作は、ダイアナの事故死の真相を追究するものではない。
プリンセスの素顔がいかに人間臭くて、愛に満ちていたのかを教えてくれる映画。そして、「だよね、ダイアナだって、別れた男を忘れられないよね」と彼女を身近に感じ、最終的には彼女のことが好きでたまらなくなることでしょう。