少女は希望を、老人は死を
人生すべてを笑いと映画に捧げたチャップリンの集大成
『ライムライト』

 最後に紹介するのは、1952年製作の『ライムライト』。
人生に絶望した踊り子を励ます道化師のセリフに名言が盛りだくさん。上記二作と違ってトーキー映画の本作は、チャップリンの人生観が詰め込まれています。

チャップリン ライムライト 映画 3選 恋 笑える 泣ける 1952 Roy Export S.A.S. All Rights Reserved. Renewed Copyright 1980 Roy Export S.A.S. All Rights Reserved.  Photos ROY EXPORT S.A.S.  Chaplin aujourd’hui France 2003 MK2 TV/Roy Export Company Establishment/CNDP

ストーリー

 かつてイギリスで人気を誇っていた道化師のカルベロ(チャールズ・チャップリン)は落ちぶれて、酒に浸る毎日。そんなある日、自殺を企てたバレエダンサーのテリー(クレア・ブルーム)を助ける。
失望して生きる希望を失った彼女を励まし、もう一度バレエのステージに立たせる――。

すべての人間に共通するのは死

 人間は皆、確実に死ぬ。どれほど成功していても、輝きに満ちた人生を送ったとしても。
チャップリンは本作で初めて素顔を出す。トレードマークのチョビヒゲ、山高帽、ステッキを置き、メイクを落とした。その顔は皺だらけ。“年老いた道化師”とは、彼自身を描いているのだろうか。
そんな「チャップリン、その後」とも受け取れる物語に待ち構えているのは、どうしても抗えない老いと、死なのです。

 生きる希望を教えてくれたカルベロに、テリーは結婚を求める。しかし、カルベロは馬鹿げていると一蹴。ここで『サーカス』や『街の灯』での恋の描き方を思い出す。
彼は決して幸せにはならない。自分には見合わないと思うからだ。その分、あらゆる映画の中でチャップリンは絶望した女性に希望を説く。だからこそ本作は彼の集大成であり、人生観の終着地にも思える。

 若かりし頃はチャップリンと共に喜劇王として知られ、長年のライバルだったバスター・キートンがカルベロの相棒役として出演。二人は人々にどれほどの笑いを与えてきたのだろう。この共演は何十年間にも渡る壮大なドラマに思えてしまう。
そもそも人生というもの自体が長尺のドラマであり、見方を変えると悲劇にも喜劇にもなり得るとでも言っているかのように。

「人生は願望だ。意味じゃない」――名言のオンパレード

 「人生は素晴らしい。必要なのは勇気と、想像力と、ほんの少しのお金だ」
これを綺麗事だと思えるだろうか。
チャップリンで最も有名なこの言葉は、カルベロのセリフから生まれた。説得力があるのは、チャップリン自身が実際に勇気と想像力とほんの少しのお金だけで道を切り開いてきたから。

 過酷な家庭環境で育ち、幼い頃は浮浪者同然の生活を経験してきたからこそ、「人生は願望だ。意味じゃない」も普遍的なメッセージとして受け取れる。人生に意味なんて求めるから躓いてしまう。『サーカス』の放浪者も『街の灯』の浮浪者も、生きている意味なんて考えただろうか。彼らの優しさは意味から生まれていないはずだ。相手の幸せを願望することで、物語は始まってきたのです。
極めつけは、カルベロが舞台で倒れたとき。死に向かう彼が、舞台上で輝くテリーを見つめながら発したセリフ。

「心臓と心……なんという謎だろう」

 どちらも同じ“ハート”なのに、全然意味が違う。心臓は止まっても、心は止まらない。
この最大の謎はラストシーン、美しくバレエダンスを踊るテリーと死にゆくチャップリンの姿に集約される。
最期、カルベロはテリーに恋したんじゃないか。突然“ハート”の話をした彼から、そう思わずにはいられない。
そこで流れる、チャップリンが作曲した切なげで優しく、清々しさのある音楽。いつだって笑いを自己から追及し、人々に提供してきたチャップリンの作り出すメロディこそがもはやメッセージとなり、言葉のように降り注ぐ。

 トーキー映画のはずなのに、本当の意味でのサイレント映画に思えてしまう。言葉を使わなくても映像と音楽の中に言葉を見つけ、心臓と心を動かせてくれる。だからこの映画は終わらない。それは、『THE END』というテロップが消えてもその音楽が鳴り続けるからだ。

仮に終わるとすれば、それはチャップリンがこの映画に込めた想いを想像し、勇気を貰い、ほんの少しのお金で恋と人生が素晴らしいものであると思えたとき。そして『ライムライト』のメッセージを、映画と地続きのこの現実世界でかみ締めたときにこそ、この映画はハッピーエンドを迎えるのでしょう。

チャップリン ライムライト 映画 3選 恋 笑える 泣ける

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 どの作品でもヒロインは皆、少なからず人生に絶望している。
チャップリンは優しく手を差し伸べる。
すると彼女たちは笑う。映画を観る人も笑う。名曲『スマイル』が鳴り響く。みんな笑っている。虫や動物は笑うだろうか。太陽も月も笑わない。笑いは人間だけに許された特権であり、チャップリンの映画では笑いこそが“自由”の象徴にすら感じられる。
『サーカス』の放浪者と『街の灯』の浮浪者には元々名前が与えられていない。文中ではチャップリンへの敬意を表す愛称として“チャーリー”と名づけています。
とにかく彼らを見てほしい。忘れられてほしくないのです。名前を与えないことで匿名性や普遍性を表したであろうチャップリンの意に反してまで、この映画を、この人たちを、名前をつけてまでどうしても見つめてもらいたかったのです。
そこに描かれる恋と人生は、決して他人事じゃない。だって、時代を越えてこんなにも笑わされているのだから。

Text/たけうちんぐ

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