お母さんは「優しいけど、恐い。」

映画『レディ・バード』のクリスティン(シアーシャ・ローナン)と母マリオン(ローリー・メトカーフ) 2017 InterActiveCorp Films, LLC./Merie Wallace, courtesy of A24

 クリスティンとその母マリオンは背丈が近く、横に並ぶと互いがまるで分身のよう。マリオンはメンタルヘルスの看護師として働いている。幾ら患者の心のケアができても、一人娘の心は掴めない。

 クリスティンにとって母は「優しいけど、恐い」。家庭と学校という小さなコミュニティの中で唯一行動を制限してくる支配者でもあり、その行動を理解しようとしてくれる救世主でもある。「初めてセックスするのって、普通は何歳?」などと赤裸々に尋ねられる相手でもあるのだ。
怒鳴り散らして大ゲンカしても、クリスティンが泣き崩れていたら抱きしめる。その傷心の理由は知らずとも、マリオンにとってクリスティンだけが希望で、クリスティンにとってマリオンだけが味方なのだろう。
等身大の17歳を克明に描く傍で、一歩引いた視点で多くの登場人物を魅力的に映し出している。マリオンもまたクリスティン同様に素直に向き合えず、その葛藤が見え隠れすることで作品自体に母性すら感じてしまう。

 愛し合っているのに、その愛情が互いに届いていない。
グレタ・ガーウィグが半自伝的に自身の故郷、そこからの巣立ちを描いているからこそ、年頃の娘と母の特殊な関係性を俯瞰的に見つめられているように思える。そのせいかマリオンを通して、クリスティンを投げかけたいセリフの数々が包容力に溢れている。

 今現在17歳であっても、かつての17歳であっても、偽ろうとする姿と本来の姿を何度も行き来する自分自身の「レディ・バード」と向き合うことができる。
母の愛情はそこを離れてみないと分からない。故郷が遠かろうと近かろうと、娘と母が他者である以上はやがて離れてしまうものだから。

ストーリー

 2002年、カリフォルニア州のサクラメント。17歳のクリスティン(シアーシャ・ローナン)は高校生最後の一年を迎え、ニューヨークへの大学進学を夢見ていた。しかし、お金や生活の不安を抱える母マリオン(ローリー・メトカーフ)は地元の大学に行かせたいことで大げんかになり、クリスティンは癇癪を起こして走っている車から飛び降り、右腕を骨折する。

 クリスティンは自身を「レディ・バード」と名付けて、周りにも呼ばせている。親友とともに受けたミュージカルのオーディションで出会ったダニー(ルーカス・ヘッジズ)と付き合って順風満帆な日々を送るも、彼がトイレで男子とキスしているのを見かけ、すぐに彼と別れる。
やがてバンドの美少年カイル(ティモシー・シャラメ)と出会って初体験を済ませるが、あることで深く傷ついて迎えに来たマリオンの胸元で泣き崩れる。

6月1日(金)、全国ロードショー

監督・脚本:グレタ・ガーウィグ
キャスト:シアーシャ・ローナン、ローリー・メトカーフ、トレイシー・レッツ、ルーカス・ヘッジズ、ティモシー・シャラメ
配給:東宝東和
原題:LADY BIRD/2017年/アメリカ映画/94分
URL:『レディ・バード』公式サイト