「他人の目は気にしなくていい」…だけど他人に愛されたい。どうしたら?

女性の画像 Eli DeFaria

「他人の目なんて気にしなくてもいい」とはよく言われるけれど、一方で、私たちは他人に愛されないと生きていけないという現実がある。
「一生独身の一人暮らしでもいいや」と思える人は男女問わずそう多くなく、やっぱり生涯のパートナーは欲しいだろうし、友達にも、また職場の同僚や上司にも恵まれていたほうがいいだろう。そうなると「出る杭」になることを恐れなければいけないシーンだって出てくるだろうし、なんだかんだで、新卒で就職して、いい頃合いで恋愛して、20代後半くらいで結婚して、子供を産んで……という王道的な人生のほうが、生きやすい気もしてくる。個人的には、社会の価値観が多様化している現在、必ずしも王道を行くのがイージーだとも言えないと思うのだけど。とにかく、「他人の目なんて云々」と「他人に愛されたい」の間を、私たちはずっと行ったり来たりしている。

この行ったり来たりのループに風穴を開けてくれ、心がすーっと軽くなると私が思っているのが、『テルマエ・ロマエ』などの代表作があるヤマザキマリさんのエッセイだ。今回は中でも、『国境のない生き方 ─私を作った本と旅─』という本を紹介したい。

他人に愛されることも大切だけど

この本には、ヤマザキマリさんが幼少時代に良い意味でだいぶ破天荒な母親に育てられたこと、そしてタイトルのとおり旅で学んだことや、本の思い出などが綴られている。 読んでもらうとわかるのだけど、ヤマザキマリさん自身も、またその母のリョウコさんも、「他人の目なんて気にしない」究極系のような人物だ。
ではなぜこの2人は、ここまで「他人の目」から自由でいられるのか。私がこの本でいちばん好きな文章を引用しよう。

「人間に愛されることも大事だけれど、この探検記のデルスみたいに、何よりも地球に愛される人になりなさい。地球が、お前には生きていてほしいと思うような人間、そういう生き物にならなきゃいけない。そうすれば、きっと自然がお前を守ってくれるよ。たとえ台風に遭っても、どんなに孤独でも、自然がきっとお前を生かしてくれる」

デルスとは、アルセーニエフの探検記『デルス・ウザーラ』に出てくる先住民族の猟師であり、またヤマザキさんの息子さんの名前でもある。
ロシアの教養人アルセーニエフと、原初的な人間の資質を備えた魅力的な人物・デルスの交流を、実はあの黒澤明が映画にしていたりもする。

私たちはつい「人間」を見てその中で物事を考えてしまうのだけど、ヤマザキさんも母リョウコさんも、身近な人間や社会を離れた、もっと大きくて広いスケールの中で生きることができているのだと思う。
どうしたらそんなスケールで生きられるのかというと、旅が好きな私がポジショントークをすると「旅に出よう、それもなるべく遠くへ」となってしまうのだけど、自然に触れることが、やっぱり大切なのだと思う。もうシーズンは過ぎてしまったけどお花見とか、屋久島に行くとか、代々木公園に行くとか。

自分を愛してくれる人がすぐ隣にいるのもいいけれど、「自然が私を守ってくれている」という実感が持てたらどんなに心強いだろうと、私はこの文章を読むと羨ましくていつも泣いてしまう。