“男性中心の社会で、たった一人女性が立ち上がること

『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』の画像 Twentieth Century Fox Film Corporation and Storyteller Distribution Co., LLC.

 ペンタゴン・ペーパーズの記事掲載について賛成・反対意見が怒号のように飛び交い、会社の重役たちがグラハムの周りを取り囲む。それは業界で唯一女性であることを強調するように印象に映る。彼女が選ぶのは、これまで築き上げてきた財産か、良心を懸けた報道の自由か。

 今と明らかに違うのは、1971年当時は社会的に女性が会社を率いることが厳しい時代であること。そこで一人の母として、一人の女として、そしてワシントン・ポスト発行人として、三つの顔でアメリカ政府と勇敢に戦う。男性中心の社会では孤独もあったはずだろう。しかし、男性の力もなければ実現できないこともグラハムは自覚していた。

 ブラッドリーとグラハムは厚く固い信頼関係で結びつく。競争と口論を好まないグラハムと、自信家で率直に行動するブラッドリーが、互いに足りない部分を補いながらアメリカ政府に立ち向かう。この二人の関係性が今後の社会で、男女が手を取り合わせて文化や情報を生み出していく理想形として美しい。

 アメリカ映画界きっての人格者として知られるトム・ハンクスと、多くの映画人に慕われるメリル・ストリープの、“ハリウッドの良心”がもたらす安心感。この二人でこそ今、セクハラ問題で揺れるハリウッドに提示すべき理想的な男女のパートナーシップだろう。

 すべての男性の成功の陰には、彼女のような存在がいた。
決して一人では成し得ない、世の男性たちがあらゆる不可能を可能に実現させてきた正体がここに描かれている。

ストーリー

 1971年、ベトナム戦争が泥沼化する中、ニューヨーク・タイムズがアメリカ政府の最高機密文書「ペンタゴン・ペーパーズ」を入手、掲載に踏み切る。だが、ホワイトハウスから圧力がかかり、法的な脅威にさらされる。
そこでワシントン・ポストがライバル誌でありながらニューヨーク・タイムズを支持し、編集主幹のベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)の指揮のもと掲載へと準備を進める。しかし、反逆罪に問われる可能性を知りながら、政府が隠蔽する真実の追求を我々が課すべきか。社内でも賛成・反対意見が飛び交う中、発行人キャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)は会社の存続までもを背負うことになる。
ブラッドリーとグラハムは報道の自由と巨大な代償のジレンマのもと、勝ち目のない戦いに挑む――。

2018年3月30日(金)全国ロードショー

監督:スティーヴン・スピルバーグ
キャスト:メリル・ストリープ、トム・ハンクス、サラ・ポールソン、ボブ・オデンカーク、トレイシー・レッツ、ブラッドリー・ウィット・フォード
配給:東宝東和
原題:THE POST/2017年/アメリカ映画/116分
URL:『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』公式サイト

前売券

Text/たけうちんぐ

次回は<『娼年』はポルノ映画ではない。欲を満たす中で浮かび上がる、人間の心の闇>です。
日々の生活にも、女性との関係にも満たされない大学生・領はある日、女性専用コールクラブに“娼夫”として入店する。やがて彼はVIPクラスに昇格し、数々の女性と身体を重ねていくが——。三浦大輔監督×松坂桃李主演で描く官能の世界『娼年』。