全員がリアルとネットで「演じている」
本作の舞台は三つに分かれている。就職活動の現実、逃避する先のSNS、そして拓人がいまだ捨てきれない“夢”の演劇。
登場人物たちがそれぞれに別の顔を持っていても、どれも共通していることは「演じている」ということ。ここに、演劇出身の三浦大輔監督が本作を手掛ける理由が大いにある。
トランプのように、当たりと見せかけてジョーカーを引かせる。その逆も然り、面接におけるたった1分間の自己アピールでいかに自分を良く見せるか。Twitterの140文字でいかに自分を演出するか。演劇でいかに自分を表現するか。どれも“嘘”であることは間違いないのに、そこで流す汗が全く違うのは何故だろう。
他人を分析してばかりで、どこか冷めた目で友人たちを見てしまう拓人。彼が演劇に熱中していた頃に流していたのが良い汗なら、就職活動で流すのは冷や汗だ。他人を蔑むことで自分を保とうとする姿から、まるで体温を感じない。無様になりたくないのだ。ダサくならないように客観的に生きる姿がここまでダサいことを、本人は全く気づかない。
これから就活を控えている人。すでに就活が遠い過去になってしまった人。『何者』は現代を生きる何者にも自分らしく生きることについて問いかけてくる。ダサくてもいいじゃないか。そこに本音がちゃんとあるならば。そんなメッセージが優しく背中を押してくれる。
いまだ捨てきれない演劇の夢を、拓人はどうするのか。
誰にとってもその存在が何かに当てはめられるように、拓人がひたすら口の中のデキモノのように妬んでいる、かつての演劇仲間「烏丸ギンジ」の顔はっきりと映らない。
一生懸命に生きる人をバカにしてしまったら、本当にその人が間違えているのか、自分が正しいのか。ほんの少し疑ってみてもいいのかも知れない。
ストーリー
就職活動の情報交換のために一つの部屋に集まった大学生5人。
演劇サークルに全力を注いでいた拓人(佐藤健)、光太郎のかつての彼女でひたむきに就活に明け暮れる瑞月(有村架純)、瑞月の友人で海外ボランティアの経験を面接に生かす理香(二階堂ふみ)、バンド活動を引退して出版社の内定を狙う光太郎(菅田将暉)、理香と同棲する彼氏で“個”を重んじる隆良(岡田将生)。それぞれが自分が「何者」であるか模索する中、SNSで発信することでいつしか互いに嫌悪感を持ち、苛立ちを覚えるようになる。
演劇の夢から遠ざかれない拓人は、かつて一緒に演劇を作っていたライバル「烏丸ギンジ」の活動を心の中でバカにしていた。自分だけ内定が貰えない日々でもがき苦しみ、やがて嫉妬や本音が剥き出しになっていく――。
10月15日(土)、全国東宝系にてロードショー
監督・脚本:三浦大輔
原作:朝井リョウ『何者』(新潮文庫刊)
キャスト:佐藤健、有村架純、二階堂ふみ、菅田将暉、岡田将生、山田孝之
配給:東宝
2016年/日本映画/98分
Text/たけうちんぐ
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