小夜子の幸せはどこにある?
嘘に塗れた物語でも、小夜子にだまされた中瀬、元木、津村、武内ら金持ちの老人たちが彼女に見せる笑顔には嘘偽りが全くない。小夜子がいかに嘘つきで、愛の欠片もなくお金を狙っていたことなんて知らないまま死んでいく。
知らぬが仏、というか知らぬまま仏になることはある意味幸せなのかもしれない。本作が描き出すのは“後妻業”の悪事だけではなく、その先で得るものと失うものだ。
もし、小夜子が犯罪に手を染めることで純粋に幸福を得ているなら、救いようがない悪者に見えただろう。しかし、小夜子は多額の財産を手に入れても全く幸せそうじゃない。羨ましくなる要素が全くない。その家庭を見れば一目瞭然だ。
息子は顔を合わせば「クソババァ!」と罵る。部屋の中は高級品で溢れていても乱雑としている。ろくに料理も作れないし、本当に流したい時に涙を流せない。失った愛をすべてお金で埋め尽くそうとする彼女の姿は、どこか痛々しくて切ない。
また、だましのプロであるはずの彼女だってだまされる。柏木から偽物のブランド品を貰って喜ぶ姿は、どこか親近感が湧く。そして、彼女でさえ虜にしてしまう不動産王・舟山がいる。だますはずなのに本気で愛してしまう。“驚異的なバケモノ”であるはずの小夜子でも、完璧な人間として描かれていないことに好感が持てる。
女は金を求め、男は色を求める。人間とはかくに欲に溢れた生き物で、情に流されやすいのかが手に取って分かってしまう。
本作は最終的にお金で手に入らないものを描く。それが一体何なのか、それは小夜子の流せない涙がすべて物語っている。
ストーリー
結婚相談所主催のパーティーで、金持ちの高齢者たちを虜にする小夜子(大竹しのぶ)。そこで出会った元大学教授・中瀬(津川雅彦)は惹かれ合い、結婚する。だが、2年後に中瀬は亡くなる。その葬式の場で、小夜子は涙を流すこともなく、中瀬の次女・朋美(尾野真千子)と長女・尚子(長谷川京子)に遺言公正証書を突きつける。その内容は、小夜子が全財産を相続するというもの。
小夜子の言い分に納得のいかない朋美は友人の弁護士に相談する。そこで、小夜子が後妻に入ることで財産を奪う“後妻業”の女であることを知る。その背後には結婚相談所所長・柏木(豊川悦司)がいた。
やがて探偵の本多(永瀬正敏)に依頼し、その悪事が次々と暴かれていく。だが、小夜子が不動産王・舟山(笑福亭鶴瓶)を本気で愛してしまい、本多の悪どい本性も現れ、事態は思わぬ方向へ向かっていく――。
8月27日(土)、全国ロードショー
監督・脚本:鶴橋康夫
キャスト:大竹しのぶ、豊川悦司、尾野真千子、長谷川京子、水川あさみ、風間俊介、余 貴美子、ミムラ、松尾 諭、笑福亭鶴光、樋井明日香、梶原 善、六平直政、森本レオ、伊武雅刀、泉谷しげる、柄本 明/笑福亭鶴瓶、津川雅彦、永瀬正敏
配給:東宝
2016年/日本映画/128分
URL:「後妻業の女」公式サイト
Text/たけうちんぐ
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