大竹しのぶが怪演!老人の金を狙う天才詐欺師が手に入れられなかったもの『後妻業の女』

たけうちんぐ 後妻業の女 鶴橋康夫 大竹しのぶ 豊川悦司 東宝 2016「後妻業の女」製作委員会

 こんなヒロインがいていいものか。
嘘をつく。お金を奪う。罪悪感がない。結婚相談所で資産を狙って、結婚詐欺を働く犯罪“後妻業”で生計を立てる女、その名は武内小夜子。お金持ちの高齢者が集まる婚活パーティーで、今日も獲物を探して色目を使う。
そこに愛なんて一切ない。お金しか見えていない。そこに幻想なんて存在しない。ここまで現実しか見ないヒロインがいるなんて!

『愛の流刑地』の鶴橋康夫監督が直木賞作家・黒川博行の『後妻業』を映画化。
主人公・小夜子に日本映画界に欠かせない女優・大竹しのぶ、小夜子を裏で操る結婚相談所所長・柏木に豊川悦司、だまされる金持ち老人の次女に尾野真千子、長女に長谷川京子、小夜子と柏木を追う怪しい探偵・本多に永瀬正敏と、豪華キャストが嘘に塗れた前代未聞の人間悲喜劇に一同に会する。

大竹しのぶでしか考えられない天才詐欺師

たけうちんぐ 後妻業の女 鶴橋康夫 大竹しのぶ 豊川悦司 東宝 2016「後妻業の女」製作委員会

 これは大竹しのぶの映画だ。彼女以外では考えられない。
年齢を超えた奇妙なあどけなさと、無邪気さの陰に見えるクレバーな佇まい。上品と下品を何度も行き来できるのは、この女優しか思い浮かばない。役者というただでさえ巧妙な“嘘”が吹き込まれた存在が、さらに“嘘”を重ねる。

「好きなことは、読書と、夜空を見上げることです…わたし、尽くすタイプやと思います」

 小夜子が読書するシーンも夜空を見上げるシーンも一切ない。その表情の白々しさといったら。ここまで罪悪感がなくて、お金持ちを次々とだましていく姿は突き抜けすぎて逆に快感を覚える。小夜子と柏木の嘘を観客だけで共有するのが楽しい。それが本多に暴かれていくことにスリルを感じる。と同時に、嘘つきが慌てふためく様子が笑えて仕方ない。と、「しまった!」側と「やったれ!」側の両方に感情移入できる。

 東京出身のはずの大竹しのぶが関西人と見間違えるくらいに大阪弁が達者で、このために習得したという役作りへの執念が伺える。原作は『後妻業』というタイトルだが、鶴橋監督が大竹しのぶへの賛辞を込めて『の女』を付けたのも納得の、彼女の魅力全開の作品なのだ。