妻・ゲルダの揺るぎない愛が美しい
「私は狂っていると思う?」「狂ってないわ」
自分に起きていることに悩み苦しむアイナーに、ゲルダはきっぱりと答える。リリーとして生きようとする夫を理解し、献身的に婦人科クリニックを探したり、リリーとしての人生を与えるにはどうすればいいか? という課題に果敢に取り組み出す。
リリーの誕生は、かつて愛した夫・アイナーが消し去られることを意味する。その事実を飲み込み、涙を隠し、愛そうとするゲルダの勇気はただものじゃないと思ってしまう。
しかし、ゲルダが愛を貫く理由は、アイナーとリリーに“本質的な違い”がないからというシンプルなものかもしれない。
ゲルダが愛したのは夫としてのアイナーではなく、リリーという誰よりも大切な人。そのすべてを愛した。
二人で描いてきた風景を慈しむかのように、ゲルダがその風景の中で佇む。二人の勇気の結晶が映し出されるそのシーンが、まるで絵を描き残すかのように記憶の中に深く刻まれるのです。
これは自分が自分らしく生きるために、自らのアイデンティティーを勝ち取るお話です。それは性別やセクシュアリティだけではなく、理想と現実のギャップに苦しむ人の心に普遍的に訴えかけ、リリーのように生きたいと願うことでしょう。
そしてゲルダの愛する人の本質を見つめ続け、懸命に寄り添う勇気に、誰もが胸を打たれるはずです。
あらすじ
1926年のデンマーク。風景画家・アイナー(エディ・レッドメイン)は肖像画家の妻・ゲルダに女性モデルの代役を頼まれる。その際に、自分の内側にある女性・リリーの存在に気づく。
それ以来、生活の中でリリーとしての感情が溢れ、心と体の不一致に苦悩し続けるアイナー。やがて女性として生きることを決心し、ゲルダにそれを打ち明ける。
当初は困惑していたゲルダだが、夫の本質的な姿に理解を深め、“リリー”とともに人生を歩もうと決意する――。
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