今の自分が本当の姿だと言い切れるなら、なんて幸せなことだろう。多くの人は理想と現実のギャップに苦しみ、その壁を乗り越えようと必死にもがく。
アイナーはリリーになる決心をした。ゲルダは夫がリリーとして生きることを受け止め、生涯の愛を誓った。その壁は並大抵のものじゃない。誰もが経験したことのない決断を、二人は多くのリスクを抱えながら挑んだ。
世界で初めて性別適合手術を受けた“リリー”とその妻・ゲルダの、愛と勇気の物語です。
『博士と彼女のセオリー』でアカデミー賞主演男優賞に輝いたエディ・レッドメインが主人公・リリーを演じ、その妻・ゲルダ役のアリシア・ヴィキャンデルが本作で本年度アカデミー賞助演女優賞を受賞。
さらに監督は『英国王のスピーチ』でアカデミー賞4部門を受賞したトム・フーパーという、近年のアカデミー賞を賑わしている才能が揃い踏み。
実在したデンマーク人画家リリー・エルベの“すべて”を繊細なタッチで描き切り、80年の時を経て現代に生きる我々の心に訴えかけてきます。
“目覚めた”ではなく“気づいた”からはじまる勇気の物語
アイナーが“リリー”の存在に気づく瞬間に息を飲む。
女性モデルの代役を任され、しぶしぶとストッキングと靴を履き、白いチュチュを腰に当てる。最初は気恥ずかしさで苦笑いさえ浮かべるが、足にチュチュの柔らかい感触がまとわりつくうちに今までに感じたことのない恍惚感が彼が襲う。それが一体何なのか分からないまま――。
急に“目覚めた”わけではなく、“気づいた”のだ。その瞬間が訪れるまで、カメラはどこかアイナーの視点に身を寄せている。女性を見る“目”に潜在的な羨望が感じ取れる。
元々華奢で線が細いアイナーだが、その仕草や目の動きからすでにリリーの側面を匂わせるシーンが多々ある。それがすべて繊細に描かれるからこそ、リリーの性別適合手術への決断がより力強く、“勇気”の物語として胸を打たれる。
だが、その物語はリリーだけじゃない。“彼”から“彼女”へ移りゆく夫の姿を見守る妻・ゲルダの変わらない勇気こそが、本作が描く愛の真髄と言える。
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