沈黙を打ち破る、暴力とセックスに満ち溢れたラブ・ストーリー

「全編セリフなし、BGMなし」
それを知った時、一抹の不安を抱いたことを反省する。劇場の薄暗い空間でずっと静かな映像を見るなんて、睡魔との戦いだと思っていた。
結果、全然違った。予想をはるかに裏切る、凄まじい映像の連続だったのだ。

 身振り素振りで鳴らす服の擦れる音、手と足で風を切る音が豪快に鳴る。常に映像に意識を留めてしまう。字幕がない分映る絵に集中し、そこに浮かび上がるバイオレンスとセックスの数々に緊張感で身を縛られる。

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 聾唖者を描いた映画、なんて聞くと下世話なヒューマニズムを誰もが思い浮かべることだろう。でも、この映画はそれを真っ向から否定する。

 セルゲイは拳で金品を巻き上げ、アナはセックスで夢を叶えようとする。レンガ造りの寄宿舎がその閉塞感をより深め、安っぽい人情味をすべてビール瓶で叩き割る。まるで、沈黙を打ち破るように。

映画、人間、愛…
すべての正体を暴く演技とカメラワーク

 言葉を話すより雄弁で、音楽を鳴らすより劇的。そうさせているのは紛れもなく、素人同然の役者とカメラワークである。
ミロスラヴ・スラボシュビツキー監督は映像の力を信じている。まるで“映画”というものの原点のさらに原点を追求しているようだ。

 映画の歴史はサイレントから始まった。セリフがない代わりに、文字と音楽で作品を盛り立てていた。『ザ・トライブ』はそれ以前の形態をしている。文字にも音楽にも頼らないし、プロの役者にも頼らない。ただ、長回しによる巧妙なカメラワークが登場人物たちを“監視”し、スクリーンを観る我々は“観察”している。
お節介なほど執拗に彼らの悪事を追って、誰かの肛門の中まで探るように、見てはいけないものを見せてくれる。

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 誤解を招く言い方になるが、言葉を発しないセルゲイとアナのセックスはまるで動物の交尾のようだ。映画の原点が連続写真であるように、人間がそもそも動物であることであることを思い出させてくれる。

 一見素朴な容姿のヤナ・ノヴィコァヴァが、その華奢な身体からは想像もつかない存在感を放つ。登場人物が繰り出す手話の迫力が、音がなくても絶叫に聞こえてくる。こちらが声を上げてしまうくらい、聾唖者たちの演技にただただ驚かされるのです。