男は単純、見抜くのはいつも女
さすがウディ・アレン。単なるロマンチック映画に落ち着くはずがありません。
スタンリーとソフィのキャラクター描写が鋭い。二人は性格が真逆で、凝り固まったスタンリーの常識を解くように、ソフィの柔らかな魅力が光る。
男は単純。これが本作の基本ルールです。
見透かそうと思ったら見透かされるし、暴こうとしていたのに暴かれる。男は魔法使いになれない。いつも魔法を見る方に回る。おとぎ話に登場する魔法使いの女性率が高い理由がよく分かります。その役目を「魔女」が担っているのです。
霊能者であるソフィが交霊会で魅せた技に、現実主義者のスタンリーは負け戦だと開き直り、”対決”する意欲まで奪われているのに、今までの人生の常識を覆されたような感覚に歓びを爆発させる。ロマンチックからほど遠い彼が改心するかのようにソフィと触れ合っていく姿は、女性からみると「勝った」という快感を得られるかも?
相変わらずウディ・アレン作品にお決まりな皮肉屋の主人公が微笑ましい。アレン監督自身が出演しない代わりにコリン・ファースがそのキャラクターを背負っていて、紳士的な佇まいのおかげか嫌味が3割減しているので非常に助かります。
恋ってこんなにオカシイものなのか!
好きになる大した理由もないのに好きになってしまっている。根拠もなく惹かれ合うことに、タネも仕掛けもありゃしない。
マジックや占いを通して目に見えない恋愛感情をあぶり出す。信じていなかったはずの魔法すら信じてしまう力を秘めている。今、手元にもどこにでも当たり前に存在する“恋” の可笑しさを、極めて冷静にロマンチックに描いているのが素晴らしい。
この恋のトリックの唯一明快なタネは、エマ・ストーンの美しさにある。その天真爛漫なキャラクターの喋り方や仕草に、現実主義者さえ夢を見てしまうのは仕方ない。その説得力を帯びたキャスティングが見事で、スタンリーとの対比を描きながら二人をくっつける「雨宿りの天文台」シーンに彼の演出が光る。
…などと、ウディ・アレンのロマンチストの側面が垣間見れますが、「行き着く所は結局そこかよ!」とつっこみたくなるアレン節満載のシニカルなクライマックスは必見です。