誰だって失敗を何度もやり直したい
やべっ、いけないこと言っちゃった→やり直し。あっ、変なところでつまづいちゃった→やり直し。
羨ましい。人生のある瞬間をタイムトラベルで何度もやり直し、“完璧な一日”を作り出せるなんて。一目惚れしたメアリーとの会話が失敗しても、何度でもやり直す。上手くいくまでやり直す。セックスだってやり直す。
些細なことから大きなことまで、失敗を成功に変えるために何度も何度も時間を行き来する。その様は共感を呼び、笑いに満ち溢れている。
誰もが失敗する前に戻りたいし、人生を最高のものにしたい。とはいえ、自分のことだけでなく、友人や妹の失敗までやり直してあげるのがティムの良いところ。観ていると次第に彼に愛着を抱き、応援したくなる。彼が幸せな家庭を築いていくことが、まるで自分の幸せになるような気分に。
このような“ワンチャンス”をツーにもスリーにもする夢のようなお話でも、現実的な描写がきちんと存在する。それは、人がいずれ死ぬこと。人生は一度きりしかないこと。これらの事実に直面する時、ティムはどうするのでしょうか。
“愛おしい時間”から人生のタイムリミットを感じる
ティムはある時から、タイムトラベルに頼らずに生きることを決める。それは過去を顧みずに生きていく強い決意。それはSFから遠く離れた現実に生きる我々が、過去を振り返らずに今を生きることにも似ている。
映画としても人生としても、本作には「家族」の理想が詰まっている。「家族」を分解すると、そこにはティムとメアリーの出会いから、デート、愛し合う時間、結婚式、子どもが生まれるまで全部散りばめられる。
「こんな人生を送りたい」「こんな映画が観たかった」
この映画は、すべての夢を叶えてくれる。人生において“時間”がいかに重要かを声を大にして叫んでいる。それも優しく、控えめに。
リチャード・カーティス監督がこれを引退作にした理由を考えると、胸が締め付けられる。
すべての愛は全部、ここで描かれる「家族」にあるのでは。これが恋愛映画の一つの到達点とすら思える、それくらい傑作なのだ。
メアリー、子どもたち、父親と母親と妹の愛おしい笑顔。これらがすべて永遠にあるとは限らない。タイムトラベルを何度繰り返しても、時計の針は進んでいる。それがいつか止まってしまう。
ティムが味わう“愛おしい時間”から、人生のタイムリミットを感じる。恋人、家族、自分。
ありふれた“時間”と、かけがえのない“時間”を行き来することで、いつか無くなる全てのものへこの映画は投げかけているのです。