血は繋がってないのに付きまとう背徳感
禁断の愛とはいっても、それぞれに一切血縁はないんです。
年齢が20〜30才くらい離れていても、リアルに考えてナオミ・ワッツとロビン・ライトって美女だったら「アリ」の範疇。自然に恋愛関係に陥ってもそこまで突っ込まれる事態じゃない。
ただ、問題なのはその母親二人が親友であるということです。
想像できますか? 親友の息子に身を包まれることを。
考えるだけでありえない。ただ、ロズとリルが若い二人に愛され、それを幸せに感じる気持ちは分かる。トムとイアンはいわば二人の理想の男性像なのかもしれないから。
海辺で美しく戯れるトムとイアンを眺め、ロズとリルはそれに見とれてしまう。息子を「私たちの作品」と言い表す。まるで展覧会の絵を眺めるように、美しい作品がこちらに歩み寄ってくるわけです。
自分が生み出した理想に愛されるのだから、拒否できずに受け入れてしまうことはしょうがない。
やがてそれぞれの尊厳を取り戻すため、関係にけじめをつけようとする4人。トムは俳優として成功し、女優のメアリーと結婚することになる。それでも、ロズの説得にイアンは聞き入れず、納得しない。
イアンから始まった不穏だらけの愛が、脆くて美しい家族の絵を崩壊させていくのです。
愛を止めようとも、時間を止めることはできない
幾らイアンとトムに翻弄されおうとも、彼らは若くて美しい。
色目を使えば同年代の女の子のハートを掴まえるなんて容易いことで、ロズとリルもそれを分かっている。「この子たちはいつか、私たちから離れていく」と。それを親離れというのか、子離れというのか。
二人は母親である前に一人の女であることを自覚してしまう。しかし、彼らと決定的に違うのは“時間”なのです。 面白いのはオープニング。幼い少女二人が海岸を活発に走り、笑顔で互いを見つめ合うその顔が急にその30数年後の姿になる。その後、同じようにイアンとトムの少年期の姿も急に青年期の姿になる。それが残酷に時間の経過を表す。
愛に限りはなくても、時間には限りがある。
ロズは「時間は止めることができないのよ」と言う。しかし、イアンは「時間を止めてあげる」と囁く。
こんな事言われてしまったらもう後には引けないわけです。惚れてしまうがな!とロズの愛情は止まらない。
ロズとリルが作った美しい作品は抽象画ではない。具体性を帯びた“時間”こそが、スクリーンを飛び越えて迫ってくる。
その絵の崩壊へのカウントダウンは、刻々と4人に近づいていくのだ。